第25回元気村・夢の農村塾 総会・講演会 2026:「『世話になるなら近くの人』という生き方」馬事考房・野谷夏海氏

2026年2月18日(水)

2026年、第25回「元気村・夢の農村塾」にて、深川市「馬事考房」の野谷夏海(のたになつみ)氏が登壇。「世話になるなら近くの人」をテーマに、愛馬フーペと共に歩む「自産自消」の暮らしを語りました。スローフード運動から得た気づき、馬搬(ばはん)によるエネルギーの地産地消、そして500年先を見据えた森づくり。効率を追う現代社会に対し、「期待せず、ただ待つ」という馬との対等な関係性が問いかけるものとは何か。

第25回元気村・夢の農村塾 講演会 2026:「『世話になるなら近くの人』という生き方」馬事考房・野谷夏海 氏

2026年、雪解けの気配を感じさせる北竜町。「第25回元気村・夢の農村塾」の会場は、静かな熱気に包まれていました。今回の講師は、隣町・深川市で「馬事考房(ばじこうぼう)」を主宰する野谷夏海 氏。まだあどけなさの残る笑顔の横には、スクリーンに映し出された愛馬「フーペ」の姿がありました。

講師 野谷夏海氏
講師 野谷夏海氏

世話になるなら近くの人

その演題に込められたのは、単なる助け合いの精神を超えた、自立した個が織りなす究極のコミュニティのあり方でした。彼女が語った約1時間半の物語。それは、私たちが忘れかけていた「生きる手触り」を呼び覚ます、静かで力強いメッセージでした。

消費するだけの自分への「罪悪感」から始まった旅

野谷夏海 氏

皆さん、こんにちは。ご紹介にあずかりました、「馬事考房(ばじこうぼう)」という屋号で活動しております、野谷夏海(のたになつみ)と申します。

今日は「世話になるなら近くの人」という、なんだかちょっと演歌のタイトルのような(笑)、そんな演題でお話をさせていただきます。

ほとんどの方が私のことをご存じないと思いますので、まずは自己紹介を兼ねて、私がどんな人間で、なぜ今、馬と山と一緒に暮らしているのか、その背景からお話しさせてください。

私は小樽市の銭函(ぜにばこ)という海と山に囲まれた場所で生まれ育ちました。現在は深川市の音江町に住んでおりまして、今年で30歳になります。

今、私が何をしているかといいますと、祖父が深川市内に持っていた山林を受け継ぎ、その山を管理しながら、馬と一緒に暮らしています。「山の管理」と言ってもピンとこないかもしれませんが、山から切り出した木材を利用したり、仲間たちと一緒に森の手入れをしたりしています。

また、このスライドの写真にあるように、愛馬の「フーペ」と共に地域の保育園へ出張したり、自宅の庭の草刈りを馬にお願いする「エコ除草」なんかを行っています。

すべての消費行動が「環境負荷」になるという葛藤

環境への意識
環境への意識

なぜ、私がこのような暮らしを選んだのか。

その原点は、実は「環境への意識」にありました。小さい頃から親の影響もあって動物が大好きで、近所の乗馬施設や動物園によく通っていました。そうした環境の中で、食べ物や身の回りのものがどこから来るのか、ということに自然と関心を持つようになったんです。

大きな転機は、大学時代の一人暮らしでした。

実家を出て、自分に必要なものを自分で買わなければならない生活。スーパーで食材を買い、移動のためにバスや電車に乗る。その一つひとつの行動が、自分の中で妙に引っかかったんです。

「この野菜はどうやって作られたんだろう?」「私が移動することで、どれだけのCO2が出ているんだろう?」。

環境意識が高かった私にとって、生きるための全ての消費行動が「環境負荷」になってしまうことへの、もはや「罪悪感」のような葛藤。生きているだけで地球を汚しているんじゃないか、そんな苦しさを感じていました。

「スローフード」と出会い、見つけた答え

そんな中で出会ったのが、「スローフード」という考え方でした。これはイタリア発祥の社会運動で、「おいしい、きれい、ただしい」食を大切にする運動です。

その中で印象的だったのが、「皿の外を考える」という視点。目の前の料理だけでなく、それが自分の手元に来るまでにどのような過程を辿ってきたのか、生産者はどんな想いで作ったのか、環境への影響はどうなのか。それを突き詰めて考えていった結果、私がたどり着いた答えはシンプルでした。
「とにかく、地産地消することが正解なんだ」。
遠くから運べばエネルギーがかかる。顔の見える近くの人から買えば、安心だし、地域の応援にもなる。

そして、今回の演題である「世話になるなら近くの人」。

これは、「何でもかんでも人に頼る」という意味ではありません。「基本的には自分のことは自分でやる(自産自消)」。でも、どうしても自分一人でできないことは、遠くの大きなシステムに頼るのではなく、顔の見える近くの人に助けてもらう。それが、環境にも心にも優しい、私の理想とする生き方だと気づいたんです。

運命を変えた「働く馬」との出会い

働く馬との出会い
働く馬との出会い

そんな思想を持ちつつ、今の私を構成するもう一つの大きな要素、それが「馬」です。

北海道大学に入学して、私は迷わず馬術部に入りました。そこでは主にサラブレッドという、足が細くて背の高い、走るのが速い馬たちと過ごしました。障害を飛んだり、華麗なステップを踏んだり、競技としての馬術の魅力にどっぷりとハマりました。

でも、もっと深く馬のことを学びたいと思い、卒業後は帯広畜産大学の大学院へ進学しました。そこで、私の人生を変える衝撃的な出会いがあったんです。課外活動でお邪魔した、ある林業家さんの現場でした。そこには、サラブレッドとは全く違う、太くて逞しい足を持った「ばん馬」がいたんです。

その馬は、山から切り出した重たい丸太を、身体一つでグイグイと引っ張っていました。「馬搬(ばはん)」と呼ばれるその光景を見たとき、雷に打たれたような感動を覚えました。

馬がいれば、エネルギーの地産地消まで叶う

馬のエネルギー源は何だと思いますか?ガソリンでも電気でもありません。

「その辺に生えている草」です。その辺の草を食べて、あれだけの巨体を動かし、人間が使う薪や木材というエネルギーを運んでくれる。これって、すごいことだと思いませんか?

馬がいれば、食料だけでなく、エネルギーの地産地消まで叶ってしまう。私が追い求めていた「環境負荷の少ない暮らし」と「馬への愛」が、ここでガチッと噛み合ったんです。

「世話になるなら近くの人」この言葉には、「馬」というパートナーも含まれています。遠くの油田から来るガソリンではなく、近くの草を食べる馬に世話になる。これが私の目指す未来の形になりました。

馬が好き!
馬が好き!

就職もせず、自転車で「生産の現場」を巡る旅へ

「暮らしのお邪魔する」面白さ!
「暮らしのお邪魔する」面白さ!

大学院修了後、周りが就職していく中で、私は「就活をしたくない」という一心で(笑)、自転車に乗って旅に出ました。

目的は「自分の口にするものの生産現場を知ること」。観光名所には目もくれず、有機農家さんや牧場を訪ね歩きました。三笠市の農園、えりも町の短角牛の生産者、豊浦町の馬耕を実践する農場……。

そこで私が面白いと思ったのは、農作業そのものよりも「暮らし」でした。どんな道具を使って料理をしているのか、家族の間でどんな会話が交わされているのか。それぞれの家庭にある「文化」のようなものを肌で感じる日々。この経験が、今の深川での暮らしの土台になっています。

その後、札幌の森林コンサル会社に1年半ほど勤めましたが、ご縁があって祖父の山がある深川へ移住することになりました。

相棒「フーペ」と、500年先を見据えた山づくり

最近のこと
最近のこと

現在、私は深川市音江町で、人工林5ヘクタールと自然林5ヘクタール、合わせて約10ヘクタールの山を管理しています。

「10ヘクタール」と聞くと広く感じるかもしれませんが、林業だけで食べていくには全然足りない広さです。でも、私は大規模な林業家になりたいわけではありません。

山の手入れ、特に人工林の間伐(かんばつ)という作業は、木の畑を育てるようなものです。手入れをしないと、木が密集してひょろひょろになり、根が張らずに倒れてしまう。少しずつ間引いて、光を入れて、太くて強い木を育てる。これは50年、100年、あるいは500年というスパンで考える仕事です。

そして、私の相棒が「フーペ」です。

中富良野のペンションで生まれた、北海道和種(どさんこ)の血を引く女の子。まだ1歳(講演当時)のお転婆盛りです。彼女との出会いは運命的でした。ペンションで住み込みのアルバイトをしながら、彼女が生まれてからずっと世話をしてきました。

フーぺとの出会い・馬と暮らす
フーぺとの出会い・馬と暮らす

期待せず、ただ待つこと

馬を育てるときに大切にしていること。それは「期待しないこと」です。「こうしてほしい」「ああなってほしい」と期待すると、馬が違う反応をしたときに、人間はイライラしたり、がっかりしたりしてしまいます。その感情は馬にすぐ伝わる。

だから、期待はしない。でも、信頼して「待つ」。人間は怖くないよ、と伝え続ける。そうすると、馬は必ず好奇心を持って近づいてきてくれます。フーペが私の後ろをトコトコとついて歩くようになったとき、「ああ、通じたんだな」と心が震えました。

今はまだ小さいので重い木は運べませんが、将来は彼女と一緒に山に入り、馬搬で木を出し、その木で暮らしを立てる。そんな「自産自消」のサイクルを回すのが私の夢です。

馬を育てる「信じて待つこと・信頼を育む」大切さ
馬を育てる「信じて待つこと・信頼を育む」大切さ
馬に抱く温かで穏やかな信頼の笑顔
馬に抱く温かで穏やかな信頼の笑顔

【会場との対話・質疑応答】温かな笑いと好奇心

付箋に書かれた質問に応える夏海氏
付箋に書かれた質問に応える夏海氏

講演の後半は、会場の参加者から付箋で集められた質問に答えるコーナー。「こんなに質問が来るとは!」と野谷さんも驚くほどの量が寄せられ、会場の関心の高さが伺えました。

付箋:フーペちゃんの名前の由来は?

野谷氏:
これはよく聞かれるんですが、実はアイヌ語で「トド松」という意味……と言いたいところなんですが(笑)。本当のことを言うと、「フラッと」行った中富良野の「ペンション」で出会ったから「フーペ」なんです(笑)。名前にあまり重たい願いを込めると、それが「期待」になって馬の負担になる気がして。呼びやすくて、響きが可愛い、そのくらいの軽やかさがいいなと思って名付けました。

付箋:馬の寿命はどれくらいですか?

野谷氏:
だいたい25年から30年くらいです。人間で言うと、3歳で成人、あとは人間の年齢の3倍くらいのスピードで歳を取るイメージでしょうか。フーペとは長い付き合いになります。私が還暦を迎えるころ、彼女はおばあちゃん馬になっている計算ですね。最後まで一緒に生きていきたいです。

付箋:移動手段はどうしているんですか?馬車ですか?

野谷氏:
あ、今日はキャンピングカーで来ました(笑)。実は古いキャンピングカーの中身を改造して、馬を積めるようにしているんです。「馬運車(ばうんしゃ)」ですね。これには皆さん驚かれるんですが、フーペも慣れたもので、自分でヒョイっと乗り込んでくれます。どこへでも一緒に行ける「動く馬小屋」です。

付箋:大学時代の研究テーマが「水ダコ」だったと聞きましたが、なぜ馬ではなく「タコ」なんですか?

野谷氏:
(会場笑)よくぞ聞いてくれました!北大では希望の生物系の研究室に入れず、物理系の学科だったんですが、諦めきれずに潜り込んだのが「水ダコ」の研究室だったんです。タコってすごいんですよ。人間とは全く違う進化を遂げたのに、ものすごく賢くて、感情があるようにすら見える。「深海から来た宇宙人」と対話しているような感覚でした。対象は違いますが、「言葉の通じない相手(異種)とどうコミュニケーションするか」という点では、今の馬との暮らしに通じているかもしれません。

付箋:収入はどうしているんですか?食べていけるんですか?

野谷氏:
鋭い質問ですね(笑)。正直、馬だけで食べていくのは大変です。今は、山の木材販売、林業のアルバイト、あとはイベントでの馬との触れ合い体験などを組み合わせています。それから、国や道の補助金も活用しています。林業は補助金ありきの産業構造になっているのが現状の課題でもありますが、使えるものは賢く使わせていただきながら、少しずつ「馬の稼ぎ」だけで回る仕組みを作ろうと奮闘中です。贅沢はできませんが、食べるものには困りませんし、何より心が豊かです。国民健康保険税に殺されそうになることもありますけど(笑)、なんとか生きています!

おわりに:馬の居場所は「仕事」の中に

馬の居場所の必要性=「仕事」
馬の居場所の必要性=「仕事」

野谷氏:
最後に。私は「馬かわいそう、働かせるなんて」と言われることがありますが、私は逆だと思っています。馬の居場所は「仕事」にある。

かつて馬は、農耕や運搬の主役として、家族の一員として暮らしていました。機械化でその役割を失った今、馬は「ペット」か「競走馬」か「食用」しか道がなくなってしまった。

私は、馬に「仕事」という役割を取り戻してあげたいんです。誰かの役に立ち、感謝され、必要とされる。それが馬にとっても一番の幸せであり、生存戦略だと思うからです。

「世話になるなら近くの人」。

もし皆さんが、庭の草刈りや、ちょっとした運搬で困ったとき、「機械じゃなくて馬に頼んでみようかな」と思い出してもらえたら嬉しいです。

今日は長い時間、本当にありがとうございました」と穏やかな優しい笑顔でお話しくださった野谷夏海氏でした。
(会場、割れんばかりの拍手)

皆さん一緒に記念撮影

皆さん一緒にハートマーク!
皆さん一緒にハートマーク!

北竜町の魂と共鳴する「自産自消」の祈り

講演後、会場の皆さんが口々に「元気をもらった」「孫にも聞かせたい」と笑顔で話されていたのが印象的でした。

野谷さんが語った「自産自消」と「顔の見える相互扶助」。そして、効率やスピードばかりが求められる現代において、彼女は「待つこと」の豊かさを教えてくれました。自然のリズムに身を委ね、信頼して待つ。その先にこそ、本当の収穫(みのり)があるのだと。

深川の森で、小さな馬と若き女性が紡ぐ物語は、まだ始まったばかりです。しかしその物語は、私たちが目指すべき未来――「人が人として、自然の一部として温かく生きられる世界」への確かな道しるべとなるでしょう。

野谷夏海氏とフーペ、そして馬事考房のこれからの歩みが、光あふれるものでありますように。そして、この記事を読んでくださった皆様の心にも、温かな「和」の灯がともりますように。。。

愛馬フーぺを静かに「見守り」「待つ」という深い信頼の愛、そして「自産自消」の精神で自然と共に生きていく、野谷夏海氏の素敵な人生観に、かぎりない愛と感謝と祈りを込めて!

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