2018年3月9日(金)
3月5日(月)13:00〜、酪農学園大学食品企画開発研究室・研究発表会が、サンフラワーパーク北竜温泉2階大ホールにて行われました。
研究発表会資料
酪農学園大学食品企画開発研究室・阿部茂 教授、ゼミの生徒さん(4名)野崎朱花さん・今野青空さん・今泉誠人さん・鈴木大樹さん。
北竜町からは、佐野豊 町長、役場企画振興課・南波肇 課長、濱田敬一 課長補佐、市場義弘 係長、東郷弘之 専門官、北竜町ひまわり油生産協議会・藤井二郎 会長、JAきたそらち北竜支所・星野忠雄 支所長、営農課・篠永雄一 営農課長、中原淳 主査、蓑口達也 主査の方々が出席されました。
研究発表の様子
▶ 濱田敬一 課長補佐の説明
北竜町役場企画振興課・濱田敬一 課長補佐
「平成29年より、高品質なひまわり油の製造技術の確立を目的として、北竜町と酪農学園大学食品企画開発研究室との共同研究がスタートしました。
酪農学園大学にて、ひまわり油の良質な原料づくりのための収穫時期・乾燥法・保管方法などを中心に、様々な調査・研究が実施されています。
初年目は、ひまわり油の酸価を製造行程の中でいかにコントロールできるか。どの過程をコントロールしていけばいいのかの課題を抽出するなどについて1年間研究を重ねました。本日は、それらの研究分析結果について野崎さんを中心に発表していただきます。
さらに、北海道の食品開発におけるスペシャリストである阿部茂 教授には、今後のひまわり油プロジェクトの動き、ひまわり油が進む大きな道のりの中で、今、北竜町がどの位置に存在するのか、これからどんな困難にぶつかっていくのか、その時に、どんなことを考えながら対処していけばいいのかなどについてお話していただきます」。
研究発表会
▶ 食品企画開発について ー北竜町ひまわり油に求めるものー
酪農学園大学食品企画開発研究室・阿部茂 教授
酪農学園大学食品企画開発研究室・阿部茂 教授
▶ 略歴・2つの大きな研究
北海道大学卒、北海道大学大学院水産科学研究科・生命資源科学専攻、博士(水産科学)。月島食品工業(株)に4年間勤務。後、北海道立十勝圏地域食品加工技術センター、北海道立総合研究機構食品加工研究センター に20年勤務、酪農学園大学 農食環境学群 食と健康学類 教授としてご活躍。
これまでの主な2つの大きな研究テーマは、低品位シロサケの節類加工への応用(鮭節の実用化に成功)、そして、過熱水蒸気技術による食品の高付加価値化(100℃以上の高温水蒸気を用いて食品の加熱処理を行う)等の素晴らしい開発を実現されていらっしゃいます。
鮭節の実用化・加熱水蒸気技術の実用化
▶ 技術開発の必要性
これまで20世紀の開発は、暮らしを良くするための実用化に向けたの研究開発でした。21世紀の現在、満たされた生活の中での開発とは、心の欲求を満たす商品開発(ストーリー型)と、問題点を解決する技術開発(技術開発型)との2つのパターンがあります。
例えば、スーパーで多種類の油が陳列されていた場合、手にとって見たくなるような魅力的な油の存在、心を惹きつけられて、心を満たしてくれるような商品開発が要求されます。
技術開発の必要性
▶ 4つのステージと3つの障壁
技術開発に於ける一般的ない考え方として、基礎研究の成果や発明が産業化され社会へインパクトを与えるまでに、4つのステージ「基礎研究・応用研究・事業化・産業化」と3つの障壁「魔の川・死の谷・ダーウインの海」を超える必要があると言われています。
・魔の川:時代のトレンドや開発競争を乗り越える知恵
・死の谷:資金・人材・物資などが枯れないようにする必要性
・ダーウインの海:厳しい生存競争に打ち勝つマネジメント力
死の谷とダーウィンの海
▶ ナンバーワンとオンリーワン
搾りたてのひまわり油は、北竜町にしかないオンリーワンの商品。
▶ 北竜町ひまわりプロジェクトの今後のテーマ:生搾りのひまわり油
瓶で売るのではなく、北竜町でしか味わうことのできない搾りたてのひまわり油を構築!
搾りたてのひまわり油は、刺身の大トロ、牛の霜降りのような、口の中に広がる至福の味わいがあります。ひまわり油は、穀物系(ピーナッツ、カシューナッツなど)の油なので深い味わいを持ちます。精製されていない、目の前で絞る、搾りたての油の味わいは格別! 精製したり、保存したりすると味わえない美味しさをもつ! 故に、その場でしか味わえない油です。
北竜町でひまわりを栽培し、収穫したひまわりの種をその場で搾油し、搾りたての油をその場で味わうことは、北竜町だから可能なこと。北竜町のひまわりを観て、その場で搾りたてのひまわり油をバケットにつけたり、地元の新鮮野菜にかけたり、スプーン1杯のドレッシングとして北竜町でしか味わえない油を食することができます。
これまで、搾りたて油に関する実績がありません。油の分析、貯蔵方法などあらゆるデータ分析が必要となってきます。収穫後に種を劣化(酸化)させないで保存しなければ、美味しい味が保てません。
今後、種の焙煎方法なども考えていきます。さらに、搾りたての条件を統一して、北竜町内の数カ所の地区でも味わえるよう広げていきたいと考えています。こうしたことによって、北竜町の町全体の経済活性効果が生まれることを目標にしています。
北竜町ひまわりプロジェクト
▶ 北竜町ひまわりオイル特産品化プロジェクト
ー収穫時期および保存方法がひまわり種子の品質に及ぼす影響ー ゼミ生(4年生)野崎朱花さん
ゼミ生(4年生)野崎朱花さん
▶ 研究の目的
「日持ちしない搾りたての美味しいひまわり油」を開発・特産品化し、北竜町に来なければ食べられない料理や惣菜などのメニューを提案。北竜町にて観光客が飲食する機会を増やし、北竜町の経済活性化に寄与することを最終目的とします。
搾りたての美味しいひまわり油
▶ 方法
施肥量が異なる2か所の圃場から収穫したひまわりを試料として研究
1.収穫時期における油脂の組織変化
総重量、直径、種子重量、種子体積、水分、油分の測定。溶剤抽出した500gの種子の搾油率、酸価(AV)、過酸化物価(POV)の測定
2.乾燥温度が油脂品質に及ぼす影響
1kgのひまわり種子を25℃、36℃、55℃で12h,24h乾燥させ、種子の重量、水分、油分を測定。更に、圧搾法で得られた油脂の搾油率、AV、POVを測定
3.保存方法による油脂の品質変化
36℃16h乾燥させた種子を常温(25℃)、冷蔵(5℃)、冷凍(−18℃)、加熱後冷蔵(120℃・5min → 5℃)に分け、それぞれ大気中、真空パック+エージレス、窒素封入+エージレスで保存し、1か月毎(1か月、2か月後、3か月後、9か月後、1年後)にAVを測定
収穫時期における油脂の組成変化
▶ 結果
1.収穫時期が遅くなるに従い、種子重量及び水分は減少。一方、油分は増加(10月1日には46%に達する)。種子が熟すと水分は減少し、油分は増加。ひまわりはキリギリまで成熟させると良いことがわかる。収穫後の酸価は上昇。適切な収穫時期と収穫後の的確な保存が重要である。
ひまわりの成熟に従って油分の上昇と水分の減少が見られた
2.36℃で乾燥したときのAVが、3.2〜4.8と高く、55℃で乾燥すると1.7~3.5、25℃での乾燥が1.0〜1.1と低い値。酸価及び過酸化物価は、温度が高いほど、乾燥時間が長いほど上昇する。低温で乾燥することが良いという結果がでる。
低温かつ短時間で感想させるのが良い
3.保存一か月目では分析数値に大きな変化は見られない。引き続き分析を継続する予定。冷凍及び加熱後冷蔵は、どの方法においても、酸価はほぼ一定。一方常温、冷蔵においては、酸価が上昇する傾向。大気中で保存の場合は、過酸化物価が上昇。一方、真空包装や窒素充填包装の場合は少ない。
油の酸化は真空包装や窒素充填包装の場合は少ない
▶ 収穫時期の違い
収穫時期の違いで、総重量・種子重量・種子体積は減少し、油分は上昇、水分は減少。収穫前の種子の変化はあまりなく、収穫後の種子は酸価が上昇。的確な収穫時期と保存方法が重要であることがわかりました。
酸価及び過酸化物価は、乾燥温度が高いほど、乾燥時間が長いほど上昇する傾向が見られるので、低い温度で乾燥すると良いことがわかりました。真空包装で、冷凍または加熱後冷蔵が高品質につながるのではないかと言う結果になりました。
今後の取組として、製造工程の検討による酸価の低減、美味しい油を絞るための前処理、搾りたて油を活用する料理の開発等を検討していきます。
適切な収穫時期と保存方法が重要・低い温度で乾燥させると良い
▶ 農場実習の様子
畑の耕起、播種、ひまわり畑の除草作業、ひまわりの頭の収穫、ネットに入れ乾燥、乾燥したひまわりの頭から種やごみを取り除き、名寄工場見学など。その他、そば打ち体験、バレー大会、懇親会、アグリファイターノースドラゴンとの写真撮影などの体験を実施。
農業実習の様子
▶ 謝辞
本研究は、平成28年度に、本学と北竜町ひまわり油生協議会とで行われた民間共同研究「高品質なひまわり油の製造技術及び商品化に関する研究」の一貫として行われたものです。この研究を行うにあたり、サポートしていただいた北竜町役場の皆様、濱田氏、日進オイリオの東郷氏、農業研修で携わった皆様、また本論文の作成にあたり、適切な助言を賜り、丁寧に指指導してくださった阿部教授に、この場をお借りして熱く御礼申し上げます。ありがとうございました。
謝辞
▶ 濱田敬一課長補佐のお話
役場企画振興課・濱田敬一課長 補佐
「北竜町に来て一番最初に舐めたひまわり油が搾油機の下からでてくる搾りたての油でした。その時のひまわり油の美味しさは今でも忘れません。ほんのり甘くて、さらっとした油でした。この搾りたての油を北竜町のひまわり油にできないかと阿部教授にご相談したところ、快く引き受けて下さいました。
阿部先生がおっしゃったとおり、この市場の中で、ひまわり油を北竜町の特産品として、しっかりと根付かせていくためには、他のものと違う要素を入れなければならないと思います。それは多量に作ることではなく、質と味だと思います。原料生産から搾油まで、すべてをチェックしてそれぞれが持つ課題を解決していかなければならないので、時間はかかりますが、いずれきちんとしたものができると思います。サンフラワーパーク北竜温泉などで提供され、ひまわりまつりのときには、観るひまわりと食べるひまわりを両方、お客様に味わっていただけるのではないかと願っています。
8月28日から10月1日までに4回、朝6時半にひまわりの頭を採って、2時間かけてその日のうちに大学に持ち込み、処理をしていただきました。適期収穫はいつなのか? 一昨年は、感で収穫してましたが去年は、しっかりと分析してもらって、収穫適期を明らかにしようということで4回検査しました。
8月下旬は油分20%、10月1日には油分45%となりました。それに伴い乾燥が進み、水分は58%から20%まで減少。分析し数字化していくことによって状況が見えてきました。分析結果の報告を大学の方から受けて、昨年は9月下旬から10月上旬に収穫作業に入りました。結果、収量も油分も高いものに繋がっていきました。
ただ問題は、酸価。10月1日には、桁違いに酸価が進みました。畑にある状態で酸価が進んでること意味し、たぶん、個体が枯れた途端に酸価が進むのだと思います。早すぎても遅すぎてもいけないので、今後の収穫時期を検討する必要があると思います。個体が枯れる直前には収穫作業を終わらせることがベストな原料を作れるのかなと感じました。
大学には、素晴らしい研究・分析をしていただいたこと、そして今後、今回の研究を活かして引き続き研究が進められることを願っています。
質疑応答中
▶ 企業と大学生が参加する北竜町ひまわり農業研修(映像紹介)
去年1年間の農業体験をまとめた映像。
Youtube・農業体験(制作:濱田敬一氏)
農場実習の様子
▶ 意見交換
酸価低減対策を含めた収穫適期などについての活発な意見交換がなされました。
活発な意見交換
阿部茂 教授
▶ 阿部茂 教授のお話
種子の中にあるリパーゼという油を分解する酵素は、ひまわり自体が生きている最中は動かないが、ひまわりの種が枯れた状態から動き出し、雨が降ったり濡れたりすると酵素が働いて酸価が上がることがわかって来ています。
種子を保存する場合、酵素の活動を止めなければならない。乾燥させるだけでなく、冷凍、もしくは加熱して酵素を死滅させた状態で保管することが、酸価上昇を妨げる手段と考えています。また、収穫後速やかに、適切な方法で処理しないと味が落ちることがわかってきました。ひまわりの種は休眠状態にすることがベストであり、低温保存が望ましいと考えます。
ひまわりの種子の酸価が上昇するのは、加水分解によるものです。酸素の有無は関係がありません。酵素を死滅させるか冬眠させるかの2点に限ります。水分があると加水分解が進みますので、水分が無い状態で保存するのが一番早い方法となります。乾燥して熱を加えると酵素が死滅するので、乾燥して7%まで水分を落として、その後すぐに加熱すると酸価上昇を防げます。
一番いいのは、焙煎して、冷凍するか冷暗所保管すること。あるいは焙煎して真空パックにして常温保存することが、コストがかからず一番良い状態で保存できる方法ではないかと思います。
今後、うまくいった場合、そうした設備投資などを検討する必要が出てくるのではないかと思います。
北竜町ひまわり油生産協議会・藤井二郎 会長
役場企画振興課・東郷弘之 専門官
▶ 佐野豊 町長のご挨拶
北竜町・佐野豊 町長
「阿部教授には、豊富な体験の中から貴重なご講演、しかもわかりやすい説明をしていただきました。昨年5月に酪農学園大学を訪れ、阿部教授にお会いして『北竜町のひまわりには歴史と伝統があり、町ぐるみで取り組んでるひまわり油については、応援させていただきます』という阿部教授の力強いお話をいただきました。
今日は、色々な角度から説明をいただき、究極は、美味しい生搾りをこの北竜町のお店で搾ってお客さんに食べていただくことが、クオリティの高いものになるとアドバイスいただきましたので、なんどかその実現に向けて、努力をしていきたいと思っております。
野崎さんから発表がありましたが、5月から10月まで、何度も北竜町に足を運び、圃場の枠取りから、播種、除草、収穫作業、天日干しの作業など、30度を超える暑い日、寒い雨の日など厳しい状況の中での作業は本当に大変だったと思います。酪農学園の皆様には大変お世話になりました。今日発表していただいたことは、多くのものが北竜町の課題となりますので、十分また来年に向けてご示唆いただければと思います。
濱田さんは、北海道庁農政部からの派遣であり、東郷さんは日進オイリオからの派遣です。ひまわり油再生プロジェクトは5年を目標期間とし、2年を終え、4月から折り返しの3年目となります。濱田さんは道庁に戻り、東郷さんは定年退職の年を迎えます。お二人が残して下さったひまわり油再生プロジェクトが絶えることのないように、より充実した体制づくりを考えております。皆様に心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました」。
佐野町長ご挨拶
阿部教授を中心に、ひまわりの播種から収穫、そして搾油に至るまでの作業・調査・研究を丁寧に熱心に取り組んでくださった酪農学園大学の学生の皆様、関係者の皆様に、心より厚く御礼申し上げます。
いつの日か、北竜町の生搾りのひまわり油という、神様からの贈り物のようなひまわり油の一滴(ひとしずく)を味わえる日を楽しみにしています。
燦燦ひまわり油
焙煎ひまわり油
北竜町のひまわり
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◇ 撮影・編集=寺内昇 取材・文=寺内郁子