平成29年度北海道有機農業技術交換発表大会(札幌市)の開催

2018/03/25 14:51 に 寺内昇 が投稿   [ 2018/03/25 20:06 に更新しました ]
2018年3月26日(月)

3月1日(木)、NPO法人北海道有機農業研究協議会・北海道の有機農業をすすめる会が主催する「平成29年度北海道有機農業技術交換発表大会」が、「かでる2・7」(札幌市)研究室にて開催されました。

テーマを「有機農業による環境保全機能の再評価」とし、基調講演には、道総研農業研究本部・志賀弘行 本部長(兼 中央農業試験場場長)、有機農業者の実践事例報告として、剣淵・生命を育てる大地の会・池田伊三男氏、アグリシステム(株)トカプチ(株)更別農場・目野宏之 氏、北竜町・ナチュラルファーム黄倉・黄倉正泰 氏、そして、特別講演では、山形大学・粕渕辰昭 名誉教授・客員教授など、皆様から貴重なお話をいただきました。

当日、吹雪による悪天候の中、100名を超える会員及び関係者の方々が熱心に耳を傾け、熱い意見交換が活発に行なわれました。


吹雪による悪天候 
吹雪による悪天候


司会はNPO法人北海道有機農業研究協議会・佐藤稔 常務理事((有)田からもの・代表(北竜町))。


NPO法人北海道有機農業研究協議会・佐藤稔 常務理事 
NPO法人北海道有機農業研究協議会・佐藤稔 常務理事


主催挨拶:NPO法人北海道有機農業研究協議会・桑原眞人 会長


NPO法人北海道有機農業研究協議会・桑原眞人 会長 
NPO法人北海道有機農業研究協議会・桑原眞人 会長


「有機農研の活動は、有機農業における環境保全型農業の普及、生産者と消費者を結ぶ事業、特別栽培認証業務などの色々な事業を行っており、今年28年を迎えます。本年度から、北海道からの新規委託事業、有機農業新規参入・年間促進サポート業務などを受託してしております。

昨年度農林水産省補正予算で、国際水準GAP等取得拡大緊急支援事業が立ち上がり、農産物の国際水準GAP及び有機JASの認証取得拡大事業に、有機農研が中心となって取り組んでいます。

日本の消費者が、農業に対して『安心・安全』を求めるのに対して、欧米では、『環境に負荷を与えない農法』という考え方が多く。このギャップは大きいのです。そこで、今回の有機農研のテーマは『有機農業による環境保全機能の再評価』としました」。


来賓挨拶:北海道農政部食の安全推進局・西英機 局長:代弁・武市淳 主幹


代弁・武市 主管 
代弁・北海道農政部食の安全推進局・武市淳 主幹


「有機農業推進法が設立後10年が経過しました。道内でも有機農業やオーガニックという言葉が多く聞かれるようになり、少しずつ浸透してきました。関係者の皆様の日頃の努力の賜であろうと思います。

有機農業の技術や交流は農業における大事な柱として位置付けられています。本日の発表が成功のうちに終わることを期待しております。この機会を与えてくださった有機農研の皆様に、心より感謝申し上げます」。


来賓挨拶:北海道農業協同組合中央会(営農指導支援センター兼)石田健一 参事


北海道農業協同組合中央会(営農指導支援センター兼)石田健一 参事 
北海道農業協同組合中央会(営農指導支援センター兼)石田健一 参事


「近年、豊饒の秋を迎えることができるのは、ひとえに生産者の努力の賜であり、また昨年の台風被害も克服することができたのも、生産者や関係者の皆様の日頃のご努力に改めて敬意を表します。

2月の暴風雨により、特に日高地方におけるハウス倒壊被害を受けられたことに御見舞申し上げます。春の再開に向けて、出来る限りの支援を行っていきたいと思います。

日米貿易交渉においる影響も拡大すること状況にあります。JAグループといたしましては、貿易交渉では、政府に対する丁寧な説明、北海道農業の確立に向けて万全な対応をしていこうと考えております。

農協改革では、規制改革推進会議等で、様々な提言が成されております。3年前に開催された北海道大会の案に基づき、力強い農業、魅力ある豊かな農業に向けて、自己改革を推進して参る所存です。

その中でも、力強い北海道農業の実現を目指して、農業所得20%増大、新規担い手の倍増などの業務目標を設定しました。特に力強い持続可能な北海道農業の確立を考えた場合、本日のテーマでもあります、環境に配慮したクリーン農業技術が基本であると承知いたしております。

本日ご参加の皆様におかれましては、日頃から有機農業・自然農業・自然循環型農業などを通じて、消費者に安心・安全な農産物を安定的に供給していくために、日頃からご尽力いただいております。JAグループの目標と基本的に目指す所が一致していると思います。JAグループといたしましても、皆様との一層の連携を深めて参る所存です。宜しくお願い申し上げます。

皆様の取り組みは、北海道農業を支えていく大きな力であると思います。JAグループと共に手を携え、北海道農業の持続的な発展にご尽力いただきますよう、ご期待申し上げます。

本日の発表大会が、会員相互の情報交換、認識の共有の場として、意義深いものになりますとともに、本日お集まりの皆様のご健勝、ご活躍をご祈念いたしまして、挨拶とさせていただきます」。


会場の模様 
会場の模様


報告:座長:桑原眞人 会長

基調講演:持続的な農地土壌管理を考える
北海道立総合研究機構農業研究本部・志賀弘行 本部長(中央農業試験場場長)


北海道立総合研究機構農業研究本部(中央農業試験場場長)志賀弘行 本部長 
北海道立総合研究機構農業研究本部・志賀弘行 本部長(中央農業試験場場長)


<志賀弘行氏プロフィール>

兵庫県姫路市出身、北海道大学農学部卒業、北海道立中央農業試験場、北見農業試験場、道農政部に勤務。主に、土壌・施肥管理、衛星データの農業利用、地下水の硝酸汚染対策、気象変動が作物生産に及ぼす影響予測などの研究に従事。


成長を続ける世界の有機農業 
成長を続ける世界の有機農業


農業活動において、世界的環境破壊や社会への悪影響を最小化するため、持続的な食料生産システムへの転換における有機農業の役割についてのお話です。

・世界の有機農業は、過去20年間にわたり急速に成長している
・有機農業は、慣行農業に比べ、生産(収量・栄養価・残留農薬)、環境(土壌の質・エネルギー消費・生物多様性・水質保全)、経済性(収益性・生産コスト・生態系サービス)、社会福祉(雇用・農薬被曝軽減)のバランスが良い


慣行農業 VS 有機農業(持続性) 
慣行農業 VS 有機農業(持続性)


・慣行農業に対する有機農業の得失は、状況に大きく依存する。土壌炭素の蓄積は有機物の投入量、水質は窒素の投入量、生物多様性は対象とする生物、エネルギー消費は生産の集約度、収益性は地域の労働コストによって変化する

・2015年から2024年の10年間を国際土壌年とし、土壌の保全が食料と水の安全保障に関わる重要事項とされ、土壌は、地球の主要な炭素貯留の場であり、気候変動対策の重要な要素であるとされる


持続的な土壌管理のためのガイドライン


持続的な土壌管理のためのガイドライン 
持続的な土壌管理のためのガイドライン


・土壌有機物(炭素)の富化は、保水性、透水性の向上、土壌侵食への抵抗性、保肥力、養分供給力の向上などを通じて、土壌の作物生産性を改善する

・養分収支では、農地における窒素収支(投入量と作物による持出量の差)は、適性な施肥の指標の一つになっている。ヨーロッパでは比較的改善傾向が見られるが、日本の収支は過去20年間ほぼ横ばいで、窒素余剰の多い国となっている

・道内の農業地域における地下水汚染ポテンシャル評価においては、地下水面が浅いほど、地下水への水供給量が少ないほど、透水性が高いほど、傾斜が緩いほど、リスクが高いと認識されている


自然要因からみた地下水の潜在的汚染リスク 
自然要因からみた地下水の潜在的汚染リスク


・排水の低下要因としては、水田では高地下水位であることと泥濘化や堅密層による浸透阻害、そして畑では土壌の堅密化による浸透阻害が考えられる

・耕盤層は、作物生育に強く影響し、秋蒔き小麦では耕盤層の有無や深さによって収量や子実蛋白含有率が大きく変化する


地域の違いが秋まき小麦の生育に及ぼす影響 
地域の違いが秋まき小麦の生育に及ぼす影響


・有機農業における土壌有機物(炭素)への富化、養分収支への配慮と循環の促進、排水改良、耕盤層対策、土壌侵食の最小化、土壌PHの適正化、輪作を含む生物多様性の保全などが、持続的な土壌管理に欠かせない要素

・持続的な土壌管理の方策としては、有機物の特性を理解した施肥、養分収支に配慮した適性施肥、気象変動に対応できる排水改良や根張りの改良を施すことが考えられる


有機農業者実践事例報告

1.我家の有機農業の変遷
剣淵・生命を育てる大地の会・池田伊三男 氏


剣淵・生命を育てる大地の会・池田伊三男 氏 
剣淵・生命を育てる大地の会・池田伊三男 氏


<池田伊三男氏プロフィール>

剣淵町出身、士別工業高校機会科卒業後就農。1990年に『剣淵・生命を育てる大地の会』を設立、会長就任。2000年より有機栽培に取り組み、2003年有機JAS認証取得、2005年全耕地面積有機JAS 栽培へと転換。2006年、高収益作物として玉葱を新規導入。2016年、ハトムギ栽培開始。2017年、玉葱・大豆・ハトムギ・緑肥を体系化。


ミキシングソワー 
ミキシングソワー


・有機栽培面積:1.095a
・家族経営:経営主・妻・次女の夫、次女はパート(その他雇用労働無し)
・栽培:玉葱、大豆、ハトムギ、緑肥(ヘイオーツ)
・家族の健康を考え、無農薬栽培をスタート。移動村づくり大学に参加し、有機農業の先進地で研修し、食べものが人体に与える影響を学ぶ
・仲間とともに、剣淵・生命を育てる大地の会を立ち上げ、無農薬・減化学肥料栽培、有機栽培に取り組む

有機栽培管理技術の特徴

・雑草を減らすために、ヘイオーツの散播やロータリー掛けの工夫
・輪作(ハトムギ → 緑肥 → 玉葱 → 大豆)
・除草(耕起・播種・鎮圧作業、数回の拾い草)
・土づくり(有機質肥料、土壌改良材、緑肥)
・病害虫防除(大豆にはわい化病対抗品種、とうがらしエキス等の資材、玉葱害虫には微生物殺虫剤、玉葱病害には菌体液肥など)
・収穫・乾燥調整は、作物によってそれぞれの手法で
・地元JA検査員による大豆等級検査
・販売先(雑穀業者、自然食品店、納豆製造会社、みそ屋など)
・土壌づくりが基本:地力が上がっていく中で、収量も増加
・大豆は窒素を多く必要とする作物であり、それを補う要因となるのが、地力窒素を上げていくことにある。窒素を多く施すと根粒菌がつかない。根粒菌を働かせようと窒素を抑えると最終的に収量が減少する。それらを補うものが地力窒素


プランターの誘導爪 
プランターの誘導爪


大豆1回目の草カルチ 
大豆1回目の草カルチ


ハトムギ手取り除草  
ハトムギ手取り除草

ハトムギ追肥 
ハトムギ追肥


ハトムギ刈り取り 
ハトムギ刈り取り


大豆収穫 
大豆収穫


2.有機栽培輪作における堆肥の利用・トカプチ(株)有機栽培の歩み
アグリシステム(株)トカプチ(株)更別農場・目野宏之 氏


アグリシステム(株)トカプチ(株)更別農場・目野宏之 氏 
アグリシステム(株)トカプチ(株)更別農場・目野宏之 氏


<目野宏之氏プロフィール>

北海道大学工学部応用化学学科卒業。酪農実習、牧場実習後、羅臼町にて漁船甲鈑員でイカ釣り漁を経験後、1990年十勝清水町で肥育牛管理。2001年芽室町でホル牡犢(ぼとく)飼育管理、2005年芽室町アグリシステム(株)農産課営業・契約栽培営農指導、トカプチ(株)で肥料工場管理・農場長兼務・畜産ユニットを経て現在に至る。

・トカプチ(株):2007年、アグリシステム(株)の農業部門として設立
・作付面積:75ha
・全圃場JAS有機栽培


大豆の雑草対策

・雑草の本葉が開く前に土をかぶせて埋める
・播種前、根を動かし、乾かして数回ハローをかけて、雑草を抑制


大豆の雑草害 
大豆の雑草害


カルチ技

・初生葉が開く前のタイミングで1回目の除草
・2回目の除草は、本葉が出たタイミング
・畝間が塞がるまで、一週間間隔で除草


カルチの技 ① 最初の除草は出芽直前 
カルチの技 ① 最初の除草は出芽直前


カルチの技 ② 株元までしっかり除草  
カルチの技 ② 株元までしっかり除草


播種方法

・30cm間隔5粒撒きで、機械除草に負けない強い株作りをする

有機栽培の小麦作り

・緑肥を含む輪作(ヘイオーツ、キカラシ、クローバー)


有機栽培の小麦作り 
有機栽培の小麦作り


大豆栽培における課題

・大豆の連作の改善方法として、適性連作の維持、新しい品種の導入、堆肥によるミネラル循環で土づくり


有機栽培の輪作イメージ 
有機栽培の輪作イメージ


有機栽培の土作り題

・微生物・小動物の働きなくしては、圃場生態系は守れない
・雑草、害虫、病原菌もゼロにすることはできず、やっつけるのではなく、共存する中で、善玉菌・悪玉菌の相互バランスを図る
・自然に摂理にかなった土壌管理、生態系のバランスを考えた農業
・生態系を守るだけでなく、人間の食べもをのつくるというバランスの中で考えていくのが農業だと実感
・できるだけ土に負担を掛けない土壌づくりにを目指す


ミネラルは畑に入れず堆肥に入れる 
ミネラルは畑に入れず堆肥に入れる


試したいこと

・裸地を減らし、緑肥を使いこなす
・越冬ベッチによる初期窒素確保
・春のライ麦緑肥による雑草抑制
・大豆の間作麦


熱心に聞き入る参加者の皆さん 
熱心に聞き入る参加者の皆さん


3.水稲有機栽培の取り組み~除草技術、無肥料栽培、はるみずたんぼ、田んぼの生きもの調査~
ナチュラルファーム黄倉・黄倉正泰 氏(北竜町)


ナチュラルファーム黄倉・黄倉正泰 氏(北竜町) 
ナチュラルファーム黄倉・黄倉正泰 氏(北竜町)


<黄倉正泰氏プロフィール>

北海道大学農学部卒業、1987年就農。2001年、有機JAS認定取得。水稲全て有機JAS及び特別栽培を継続。2006年産有機JAS「きらら397」が「MOA自然農法文化事業団自然米コンクール奨励賞」受賞。2011年産「特別栽培米おぼろづき」が山形県庄内町主催「第5回あなたが選ぶ日本一おいしい米コンテスト」で上位30位内入賞。2014年「特別栽培米ゆめぴりか」が「第4回米−1グランプリinらんこし」で上位36位内入賞。

・経営規模:水田1516a(内有機JAS認定圃場375a)
・家族経営:本人、妻、父、母
・栽培作物:水稲(ゆめぴりか、おぼろづき、ゆきひかり)、サヤインゲン
・除草機:みのる産業の水田駆動除草機


水稲有機栽培の取組み 
水稲有機栽培の取組み


有機農業開始の動機と経緯

・1973年より両親がMOA自然農法水田を開始
・経営移譲後、2001年に有機JAS農産物生産圃場認定取得し、面積拡大


有機栽培「ゆめぴりか」収量水準 
有機栽培「ゆめぴりか」収量水準


有機栽培管理の特徴

・2002年、水田除草機「ティラガモ」導入し、除草剤不使用の水田拡大
・2005年、北海道地区MOA自然農法文化事業団の指導を受け、畝立て耕起法による農薬不使用・肥料不使用栽培試験を始める(あやひめ、ななつぼしで試験栽培)
・2006年、創地農業21北海道ふゆみずたんぼプロジェクトに参加し、田んぼの生きもの調査とはるみずたんぼ(春期長期湛水栽培)に取り組む


田んぼの生き物調査の様子 
田んぼの生き物調査の様子


有機栽培の実践・工夫のポイント

・土作りでは、稲わらの鋤きこみと有機質肥料の投入
・病虫害対策としては、ドロオイムシには、ドロオイクリーナーを使用
・いもち病には、移植間隔を広げ粗植気味にしたり、食酢の散布を行う
・カメムシには、色彩選別機の利用
・雑草対策としては、秋のプラウ耕により、広葉雑草の塊茎、鱗茎を凍結・枯死。春の1回目代掻きと植え代掻きの間隔を空け、ヒエなどの雑草を発芽。田植え7~10日後位から、株間除草機(みのる)を2回入れ、その後手取り除草を行う


有機栽培の実践・工夫のポイント 
有機栽培の実践・工夫のポイント ① 土づくり ② 病害虫対策

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③ 雑草対策

みのる水田駆動除草機 & 手取り除草 
みのる水田駆動除草機 & 手取り除草


組織活動

・(株)アレフ「北海道ふゆみずたんぼプロジェクト」に参加。有機水田の定期的ないきもの調査と生育調査を実施し結果を元に、生物多様性と有機稲作の関連についての情報を得て、様々な指導を受ける

農産物の出荷・販売

・JAきたそらち北竜支所への出荷(北竜町玄米ばら調整集出荷施設では、有機JASの小分け資格を有し、有機栽培米の異物・色彩選別後、袋詰めし低温倉庫で保管) ・自家農場の有機栽培米は、主に札幌米穀店、自然食品店、輸出業者へ販売

有機農業の課題

・雑草対策として、手取り除草をできるだけ減らし、いくつかの除草技術の合せ技による抑草を目指す
・毎年開催している「田んぼの生きもの調査」会などを通じて、多くの消費者の方々に有機稲作を身近に感じて理解していただけるよう努めていきたい。


④ 雑草対策の課題 
④ 雑草対策の課題


特別講演:無肥料・無農薬で多数回中耕除草による水稲栽培
 ~10年間の結果から考えたこと~
 山形大学・粕渕辰昭 名誉教授・客員教授


山形大学・粕渕辰昭 名誉教授・客員教授 
山形大学・粕渕辰昭 名誉教授・客員教授


<粕渕辰昭氏プロフィール>

滋賀県出身、岐阜大学農学部農芸化学科卒業。農林水産省農業技術研究所研究員、農林水省北海道農業試験場水田土壌管理研究室室長、山形大学農学部名誉教授、2009年定年退職後、客員教員して現在に至る。


無肥料・無農薬で水稲栽培をはじめたきっかけと結果

片野学著『自然農法のコメつくり』(農文協刊)の情報をきっかけに、少区間で多数回中耕除草を試行。その後、江戸時代の農書『日本農業全集(全73巻)』に記述された自然農法のルーツをすべて読破。
2008年より、30aの圃場で、多数回除草などの様々な実験を実施。結果、1等米8~9俵、食味値85以上を確保。
多数回除草には、水田の持つ窒素固定能と物質循環速度とを向上させ、イネに負荷をかけない生育環境を作り出す力を有することが判明。


日本農書全集 全73巻(農文協刊) 
日本農書全集 全73巻(農文協刊)


除草するものと除草しない田んぼを半分ずつ試験栽培


7月12日(第7回) 
7月12日(第7回)

中耕除草回数 
中耕除草回数


育苗方法

・ポット苗、プール筏育苗


ポット苗、プール筏育苗  
ポット苗、プール筏育苗


中耕除草方法

・水田用カルチ+チェーン除草機


水田用カルチ+チェーン除草機 
水田用カルチ+チェーン除草機

浮くチェーン除草機を作った 
「浮くチェーン除草機」を作った『現代農業』

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中耕除草回数と収量(2015)

収穫期 
2017年9月18日


イネに必要な養分

・特に窒素が必須


イネに必要な養分=特に窒素が必須 
イネに必要な養分=特に窒素が必須


田んぼは「肥料製造工場」

・土を混合攪拌して、均一化し、分解反応(醗酵)を高速化させる
・表面が更地になり、新たな光合成微生物が繁殖する
・田んぼの中の窒素は、10日で1kgを生み出されるという結果から、田んぼは「肥料製造工場」であると言える
・除草は、除草をしているだけではなく、肥料を作りだしている


土を撹拌すると分解反応を高速化 
土を撹拌すると分解反応を高速化


なぜ、農薬が必要なのか?

・イネが必要としている以上に濃い濃度で肥料を与えると、養分過多でストレスがかかり、軟弱になる。病原菌・虫・草は、メタボなイネを好む
・除草剤を撒くと、窒素固定する光合成細菌類が死滅する

到達点

・ワラを全量、圃場に戻す
・苗は健苗・浅植えは、20株/㎡
・中耕回数は、カルチで8回がおすすめ、最低でも4回、できたら株間除草も
・中耕除草の間隔は、田植え3日後から幼形期まで均等に(8回で6日間隔)
・水は、あまり切らさない
・1株15本程度。病気なし、虫害なし、下葉があまりかれない。アキアカネ、ドジョウが増加
・10年間無農薬で水稲栽培を行っきたが、一度も農薬を使っていない

無肥料で多収の研究は行なわれなかった理由

・官庁農学で上意下達の世だった
・西洋崇拝主義だったため、江戸時代の多数回中耕除草が見逃された
・農学の欠陥で、分析が先行し、総合的に考察することが不足(各自の専門に集中し、全体的な総合判断にかけていた) ・最近では、農家(生産者)の方々へは、自分達で分析し、自分達で納得のいく農業を総合的に実践していくことをお薦めしている

明治農書全集にみる除草

「中耕除草は、当地方にては少なきは二度、多きは四度なりといえどもいまだもって充分なりとせず、六、七度くらいは取りたきものなり」と明治農書全集・山形県稲作改良法筆記(志岐,1891)に記載されている。

これからの有機農業

・生きものとの共存を図る。水田は人工共存系である
・自然の環境を積極的に利用する
・田んぼに垣根は作れない(生物の行き来がある)
・イネ・草・動物・人が共存して元気に生きる
・自然栽培を実践している方は皆さん健康で元気
・稲の持つ力は、未知なるものであると実感する


垂柳遺跡(たれやなぎいせき):青森県南津軽郡田舎館村にある弥生時代中期の遺跡 
垂柳遺跡(たれやなぎいせき):青森県南津軽郡田舎館村にある弥生時代中期の遺跡


総合討論・意見交換

・稲に必要な養分(窒素など)、生ワラの戻し方、地力窒素などについて、活発な意見交換がなされました


パネリストの皆さん 

総合討論・意見交換 

総合討論・意見交換 

総合討論・意見交換 

総合討論・意見交換 

総合討論・意見交換 
総合討論・意見交換


閉会の挨拶:NPO法人北海道有機農業研究協議会・國廣泰史 副会長

・閉会にあたり、NPO法人北海道有機農業研究協議会・國廣泰史 副会長よりご挨拶をいただきました。


総合討論・意見交換 


かけがえのない貴重なお話の数々をありがとうございました。
素晴らしい方々との交流に心から感謝いたします。

生きとし生けるすべてものが、共存し循環して、
生命育み繋んでいく環境保全型有機農業に、
大いなる愛と感謝と祈りをこめて。。。


「かでる2・7」前の雪景色前 
「かでる2・7」前の雪景色


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◇ 撮影・編集=寺内昇 取材・文=寺内郁子