2013年3月6日(水)
3月1日(金)、23回目を数える平成24年度北海道有機農業技術交換発表大会が、北海道大学農学部大講堂(4F)で開催されました。
今回の技術交換発表大会は、「有機農業の試験場技術と農家実践技術のポイント」がテーマです。大講堂では、100人を超える人々が、熱心に耳を傾けました。
司会は、主催の特定非営利活動法人 北海道有機農業研究協議会・山本毅 事務局長。
我が町・北竜町からは、ナチュラルファーム黄倉・黄倉正泰(おうくら まさやす)さんが発表されました。
左:会場となった北海道大学農学部 右:立派な前刷集
特定非営利活動法人 北海道有機農業研究協議会は、2011年に設立され、環境保全と安全良質な農産物づくりのために、土づくりを基本とした有機農業の普及を目指しています。
協議会では、実証農場による実践技術の調査・研究、技術セミナー・技術交換発表大会・現地研修会等の開催を通じて、北海道有機農業の振興に務めるなど、幅広い活動を行なっています。
そして、協議会の常務理事には、北竜町在住の佐藤稔 氏(北竜ひまわりライス生産組合長)が務められていらっしゃいます。
左:農学部入り口 中:農学部案内図
右:司会・山本毅 氏(北海道有機農業研究協議会・事務局長)
▶ 主催者代表・桑原眞人 氏(北海道有機農業研究協議会 会長)のご挨拶
「今日は、足元の悪い中、沢山の方々にお越し戴き感謝申し上げます。
今回の開催から開場が農学部大講堂となり、交換発表大会は23回目を迎えます。
道総研における様々な研究成果を笛木氏に、そして有機農業実践者4名の方々の取組についてお話して頂きます。
皆様にとって、役に立つ有意義な会となりますことをご祈念申し上げます」
▶ 柴田弘行 氏(北海道農政部 食の安全推進局 食品政策課 農業環境担当課長)ご挨拶
「農業は本来、自然界の物循環に依存して成り立っているものです。持続的に発展していくためには、農業生産活動に伴う環境への負荷をできるだけ低減させていくことが必要で、環境と調和のとれた農業生産を確保していくことが重要となります。
北海道では、農業の自然循環機能を維持増進させるよう、有機物の施用などによる健全な土づくりを基本に、化学肥料や農薬の使用を必要最小限にとどめるクリーン農業や、それらを基本的に使用しない有機農業を推進しています。
北海道では、全国に先駆けて、平成3年度からクリーン農業を、そして平成16年より北海道の重点施策として有機農業推進計画が進められてきました。
さらに、平成19年の北海道有機農業推進政策より5年が経過し、有機農業を含めた農業を取り巻く情勢も大きく変化しています。様々な推進状況による見直しなどが適時適切に検討されています。
今後、農業技術研究の拡大、有機農業技術のポイント、ツボ等を収集した指導、加えて、関係者のネットワーク作りを進め、慣行農家の一部有機化を図り、合わせて新規参入の促進を図っていきたいと考えています。
販路の拡大に関しては、量販店との連携強化、有機農業者グループの促進等に務めてまいります。またインターネットを活用した情報提供、サポーター作り等の取組を進めてまいりたいと思います。
有機農業関係者の皆様にとって、本日の貴重な数々のお話しが稔り大きものとなるよう、そして本年も豊穣の秋を迎えられますようご祈念申し上げて終わり言葉とさせて頂きます」
▶ 小南裕之 氏(北海道農業農業協同組合中央会 農業振興部長)ご挨拶
「北海道の農業は、農家戸数の減少、担い手の高齢化、燃料価格の高騰などの問題に直面し、また、TPP交渉も大きく舵が切られようとしています。
JA中央会としては、関係機関と連携して、何のための、誰のためのTPP交渉なのかを、国民に広く訴えていく所存です。
このような様々な内外の環境下の中で、有機農業につきましては、北海道のクリーン農業の先駆的存在として、今後さらに発展されることを願い、我々としましても、安心・安全な食の確保、身体に優しい農業の実現に向けて取り組んでいきたいと考えております。
北海道の有機農業が今後さらに発展されますことをご祈念いたします」
▶ 座長・飯澤理一郎 氏(北海道大学大学院 農学研究院教授)のお言葉
「私はこの3月で北大を去ることになりました。有機農研には、初代から関わっており、最後の記念の大会となります。
1990年に始まった有機農研は、最初は世間ではあまり知られておらず、次第に世の中も変化し、今では、希望の農業と言われるようになり、有機農業に取り組んでみたいという方々が増えてきました。
新規就農、新規参入の場合は、農業技術が大変大きな壁となってくると思います。今日は有機農業を実践されている方々、有機農業の新たな技術開発を行なっている試験場の方のお話を伺いながら、今後の有機農業の在り方をじっくりと意見交換していただきたいと思います。
今日は、皆さんと一緒に有機農業技術について学んでいきながら司会進行させていただきたいとおもいますので、ご協力のほど宜しくお願いいたします」
会場風景(北海道大学農学部大講堂・4F)
笛木伸彦 氏(北海道立総合研究機構 農業研究本部 企画調整部)から、道総研がこれまで開発してきた有機農業に関する研究成果について、総論的にお話を戴きました。
その後、北海道の有機栽培農業者4名の方々の様々な農業形態の実践報告によるご講演です。
・黄倉正泰 氏・ナチュラルファーム黄倉(北竜町):「生物多様性に配慮した有機稲作の取組」
・森武守 氏・畑のがんこもの組合(剣淵町):「畑作の有機栽培~畑のがんこもの組合の取組~」
・矢作芳信 氏・(有)矢作農場(津別町):「有機畑作・野菜作に有機肥料を取り込んだ耕畜連携」
・滝本和彦 氏・滝本農場(赤井川村):「自己満足の我流農場」
▶ 笛木伸彦 氏(北海道立総合研究機構 農業研究本部 企画調整部 地域技術グループ 主査)
◎ 笛木伸彦氏プロフィール
・宮城県仙台市出身。
・北海道大学農学部修士課程修了(農学博士)
・土質調査会社を経て、道立中央農試、十勝農試、北見農試にて土壌肥料の試験研究に従事
・2008年~2009年にはポーランド科学アカデミー農業物理研究所にて客員研究員
・研究分野として土壌肥料学、作物栄養学、栽培学、環境学。特に土づくりや施肥管理・有機物管理に関して、現場との連携プレイを得意とし、様々な研究成果を学術論文にして発表。
・2003年~現在、JICA土壌診断・環境保全コースにて講義担当
◎ 北海道における有機栽培の特徴
・一戸あたりの有機栽培面積は平均11.3haで大規模
・作付け作物は、畑作・野菜作が中心(ばれいしょ、かぼちゃ、たまねぎ、にんじん、大豆)
◎ 道総研における有機栽培への取組
・水稲、馬鈴薯、玉ねぎ、かぼちゃをはじめとした実態調査、作物別の栽培法、経営戦略土壌窒素診断法、有機畜産などに関する成果
・これらの栽培技術の習得、土づくり、病害虫抑制、雑草対策等が課題
◎ 有機農業と慣行農業の土壌の違い~ヨーロッパでの研究成果~
・ポーランド科学アカデミー農業物理研究所(ポーランド・ルブリン市)での客員研究員としての北海道長期海外研修事業(2008年6月~2009年2月までの8ヶ月間)
・農業に関わる諸物理現象を研究。恩師である Jerzy Lipiec 教授は、土壌物理学の世界的権威者
◎ ポーランドの農業
・主要農産物は、穀物(小麦、大麦、ライ麦)、ばれいしょ、テンサイ等
・国土の約6割が農地(1,800万ha)
・農地の大部分は砂(シルト質土壌)
・年間降水量600mm(特に5~6月が干ばつ)
・農家人口200万、全労働人口の22%
・1戸平均面積9ha(5ha未満の農家53%で未だ低所得農家が多い)
・小規模農家が多いことを逆手にとって、有機農産物等の付加価値の高い作物を作り、他のヨーロッパ諸国に盛んに輸出され始めている
・ポーランド農業省土壌科学植物栽培研究所は、1862年に設立され、ヨーロッパで最も歴史のある農業研究所のひとつ。プワビィ(ワルシャワの南東120km)に位置し、大規模な有機輪作圃場を有する
・ポーランドの大規模有機輪作は1994年から継続中で14年目となる
・ほぼ正方形の1ha圃場1つにつき、秋まき小麦、春まき小麦(クローバーと混種)、ばれいしょが作付けされる(4輪作)
・施用物はコンポスト30ton/ha(牛糞堆肥約30%、麦稈(むぎわら)約30%、ソラマメ破砕物約30%)、有機カリ肥料50kg/ha
・有機圃場の中には各作物10品種と栽植密度の処理を組み合わせた試験が行なわれている
・最大の課題は、病気(小麦、ばれいしょ)
・雑草については、麦類の場合はクローバーとの混種で相当の雑草が抑えられるらしい
・馬鈴薯の場合は、手取り除草が相当時間かかるのが問題
・干ばつ傾向のためか害虫は少ないらしい
◎ 有機農業の継続は、土壌にどのような変化をもたらすか
・肯定的な報告:土壌有機物、土壌微生物が増え、土壌微生物の多様性が増し、土壌粒団の安定性が増す。土壌侵食が受けにくくなり、リン酸・カリ肥沃度が高まる
・否定的な報告:土壌粒団の安定性、侵入能、土壌有機物量に差なし。有機の継続でリン酸・カリ肥沃度が低下。故に、さらなる研究が必要
◎ 有機土壌で粗孔隙が多い理由
有機物投入量が多く、農薬が施用されない有機農場土壌は、ミミズの棲息空間としてより好適であると推察される。
◎ 有機農場が土壌質を高める効果
その一つとして、土壌中の生息する生物を、選択性の低い農薬や過大な量の化学肥料等に由来する害圧から開放し、土壌の持つ機能を引き出すことが挙げられる。すなわち、ミミズ等の「土づくり生物」に優しい農薬・化学肥料を開発・使用することで、慣行農業の安全・安心を高めることにつながる。
講演スライド
▶ 黄倉正泰 氏・ナチュラルファーム黄倉(北竜町):
「生物多様性に配慮した有機稲作の取組」
◎ 北竜町
・北海道の空知管内北部、雨竜川の西岸に位置する。町東部は平野、西部は山岳地帯、暑寒別岳を望む
・ひまわりの作付面積は日本一。夏には23.1 haの丘に130万本のひまわりの花が咲き誇り、多くの観光客がひまわりの里に訪れる
・北竜ひまわりライス生産組合が、2006年に取得した「生産情報公表農産物JAS規格」によって、生産情報のトレーサビリティーが確保されている。
・200戸近い農家が所属する水稲の生産組合が「生産情報公表農産物JAS規格」を取得したのは 日本で初めてであり、日本で唯一とされている
・特産物は、「ひまわりすいか」「ひまわりメロン」「黒千石大豆」
・そばの収穫量も多く、良質のそばが生産されている。平成24年度全国そば優良生産で、北竜町ひまわりそば生産組合が農林水産大臣賞を受賞(2013年3月)
◎ 黄倉正泰氏プロフィール
・北竜町出身、北海道大学農学部卒業
・1987年:就農
・2001年:有機JAS認定資格取得
・2005年:「有機JASきらら397」が「MOA自然農法文化事業団第2回自然米コンクール奨励賞」受賞
・2011年度産「特別栽培米おぼろづき」が山形県庄内町主催「第5回あなたが選ぶ日本一おいしい米コンテスト」で上位30位内に入賞
◎ 経営概要
・経営規模:水田1,516a(内有機JAS認定圃場 463a)
・労働力:本人、妻、父、母
・作物別作付面積:水稲(有機JAS栽培:463a、特別栽培(減農薬減化学肥料):991a、)、
サヤインゲン(15a、慣行栽培)
◎ 有機農業取組の経緯
・1973年(昭和43年)よりMOA自然農法の水稲栽培をはじめた両親より経営権を移譲され、1987年に就農
・有機栽培米の需要対策として、2001年に有機JAS農産物生産圃場の認定を取得し、面積拡大に務める
◎ 有機栽培管理技術の特徴:
・2002年:水田除草機「ティラガモ」を導入し、除草剤不使用の水田を拡大した
・2005年:北海道地区MOA自然農法文化事業団の指導を受け、畝立て耕起法による農薬不使用・肥料不使用栽培試験を開始
・2006年:創地農業21北海道ふゆみずたんぼプロジェクトに参加し、「田んぼの生きもの調査」「ふゆみずたんぼ(春期長期堪水栽培)に取り組む
・2008年:(株)リープスと(株)スマートサポートの協力の下、水田除草作業用スマートスーツライトのモニターを始める
・2009年:北海道立上川農業試験場と共同で、水稲有機栽培における有機肥料の側条施肥試験開始
◎ 有機栽培技術の実践・工夫ポイント
・土作り:稲わらの鋤き込みと、有機質肥料の投入
・病害虫対策:ドロオイムシには、ドロオイクリーナーの使用、除草機に取り付けたロープや棒で擦り落とす。いもち病には、食酢、微生物資材(ポトキラー水和剤)の散布
・雑草対策:
秋のプラウ耕により、広葉雑草の塊根、燐経を凍結・枯死させる。
春は1回目代掻きと植え代掻きの間隔を空けて、その間にヒエなどの雑草を発芽。田植えは、晩限の6月5日頃まで遅らせる。
初期除草は、チェーン除草機を使用。
田植え2週間後位から、株間除草機(ティアガモ)を2回入れ、その後、手取り除草を行う。
◎ 農産物の出荷・販売
・JAきたそらち北竜支所の北竜町玄米ばら調製集出荷施設は、有機JASの小分け資格を有し、有機栽培米の異物・色彩選別・袋詰を行い低温倉庫で保管
・有機栽培米は、主に札幌の自然食品店、米穀店、外食店へ販売
講演スライド
▶ 森武守 氏・畑のがんこもの組合(剣淵町):
「畑作の有機栽培~畑のがんこもの組合の取組~」
◎ 剣淵町
・北海道上川地方北部、北海道中央部の都市・旭川市から北へ50kmに位置する町。中央部を天塩川の支流剣淵川が流れ、その流域は農業に適した平地であり、東と西の両側は丘陵地帯
・絵本の町として盛んで、2004年にオープンした「絵本の館」には世界中の絵本約45,000冊が収蔵
・2007年、番(つがい)のアルパカが剣淵町に訪れ、「ビバアルパカ牧場」で飼育が開始
・2012年、ペルー共和国フニン県タルマ市パルカマヨ区へ姉妹都市提携のため訪問
・特産品に、「剣淵オリジナル野菜ジュース」「屯田三色めん、玄米うどん・そば」「剣淵銘菓わらび餅」など
◎ 森武守氏プロフィール
・1969年(昭和44年)地元高校卒業後、後継者として農業従事
・2000年:有機栽培取組開始。現在、25ha農地の内、9haが有機栽培
・2010年:後継者(三男)とともに、安心・安全な作物の栽培や販売をスタート
◎ 畑のがんこもの組合の概要
・「中味で勝負」をモットー!
・畑のがんこもの組合(剣淵町で有機栽培、特別栽培に取り組む生産者組織)
1988年:無農薬栽培について、試作研究を行い、「健康玉葱会」を生産者7戸で設立。
1989年:「畑のがんこもの組合」改名。
1993年:商標登録取得。
2001年:有機栽培認定。
2006年:生産農家11戸(組合員5戸、準組合員2戸、員外4戸)により生産、販売を行う。
・平成24年度の組合有機栽培面積 4,7083a
・作付け品目は、大豆、小豆、金時、稲きび、馬鈴薯、南瓜、緑肥等
・自然環境を生かし、美味しくて安全性の高い農産物の生産・供給(契約栽培)を行い、環境保全型農業・安定した農業経営を目指す。「自らも消費者であり、心身の健康の為に日々研究、努力する」(畑のがんこもの組合 規約より)
▶ 矢作芳信氏・(有)矢作農場(津別町):
「有機畑作・野菜作に有機肥料を取り込んだ耕畜連携」
◎ 津別町:
・北海道東部オホーツク圏の内陸部に位置し、東西37.2km、南北34.1km。網走支庁管内の東南部に位置し、扇状に広がる河川流域に農村集落が形成されている中山間地域。
人口5,480人
・小麦、馬鈴薯(ばれいしょ)、甜菜(てんさい)等の耐冷畑作物と酪農・畜産が主体で林業と並ぶ基幹産業として発展
・林業は、町の総面積716.6k㎡うち、86.42%を占め、木材の加工・木製品の製造により林業に関連する産業が発展
・森の体験研修の場としての「北海道立津別21世紀の森」が設置されている。その総面積約23haの広大な敷地の中心部にある「森林学習展示館」では、木のおもちゃ等が多数展示され、子供たちが遊びながら、森のこと、木材のことが学習できる
・特産品は、木折箱(駅弁、空弁、料理折、寿司折、和菓子用、その他お土産用の木製容器)をはじめ、一般製材、木工工作キット、木のおもちゃ、クラフト製品などさまざまな木工品を製造販売
◎ 矢作芳信氏プロフィール
・網走郡津別町出身。美幌農業高校卒業後に就農
・1978年:法人化、㈲矢作農場の代表となる
・1991年:減農薬・減化学肥料による玉葱、南瓜の栽培に取り組む
・2006年:有機JAS認定取得
・現在、津別町農業推進協議会副会長
◎ 経営概要:
・作付面積:1,644a(有機189a、特別栽培1,004a、その他一般栽培、緩衝地帯)
・品目:玉葱、にんじん、馬鈴薯、かぼちゃ、アスパラガス、春まき小麦(一般栽培)、緑肥ひまわり
◎ 有機栽培の管理
・土づくり:堆肥施用(有機酪農家より提供の完熟堆肥使用)、施肥(土壌診断に基づき、数種類の有機質肥料を肥料成分を調整して使用、発酵鶏糞、脱脂米糠、アミノフィッシュなど)
・排水対策:暗渠排水や客土などの実施
・雑草対策:カルチ除草(3回)、手取り除草(4回)を実施。効率的な機械収穫のため、収穫前の「たね草取り」を重要視している
・病害虫対策:作物生育や気象をみながら、微生物農薬や銅剤(有機認証)などで防除を実施
・一般作物も作付しているが、有機圃場への農薬ドリフトがないよう、緩衝地帯や緑肥帯を設置
◎ 耕畜連携の推進
・2011年より耕種農家による有機酪農向けイアコーンサイレージ用(※)とうもろこし(とうもろこし子実のみ収穫)受託試験栽培が実施され、町内の耕畜連携が始まる(有機認証圃場60a)
・2012年には、受委託栽培面積は240aに増え、イアコーンサイレージの安定供給に目処が付きつつある
・とうもろこし後作馬鈴薯栽培試験を酪農家の有機認証圃場50aで実施
※ サイレージとは、サイロ内で乳酸発酵させて貯蔵した飼料。栄養価の高いイアコーン(トウモロコシの雌穂(しすい))をサイレージ化し、濃厚飼料として利用する。
▶ 滝本和彦 氏・(有)滝本農場(赤井川村):「自己満足の我流農場」
◎ 赤井川村
・北海道後志総合振興局管内、余市郡にある人口1,179人の小さな村。小樽市の南西に位置する
・東西26km 南北17kmに広がる四方を山々に囲まれた地形で、日本で唯一のカルデラ盆地
・「日本で最も美しい村連合」の一つ
・農業が主産業で、米、じゃがいも、かぼちゃ、とうもろこし、メロン、スイカ、野菜、花などが作られている
・余市岳の麓に、スキー場を中心にしたキロロリゾートという保養地を有する
◎ 滝本和彦氏プロフィール
1946年:北海道赤井川村生まれ
1963年:酪農学園大学付属植苗塾農場卒園。以降、赤井川村にて農業に従事、酪農、養豚、養鶏など複合経営を行う。その後畑作に移行
1999年:遮光を利用したホワイトアスパラを北海道で初めて栽培
2001年:有機JAS認定取得
2002年:アスパラガスに地名以外の名前を付けてブランド化を図る
2006年:ブルーベリー、カシス栽培
「儲かる農業よりも、楽しむ農業」を目指して現在に至る
◎ 経営概況
・労働力:家族4人、パート10名余り雇用(アスパラガス~ニンニク収穫時期)、人材派遣雇用
・経営規模:経営面積6ha(全て有機JAS取得)、アスパラガス3.6ha、ニンニク90a、ブルーベリー800本、カシス300本
◎ アスパラガス栽培の特徴
・春にバーナーによる焼却で害虫、病原菌、雑草種子の軽減を図る
・畝上部の畝崩し、管理機による畝間中耕、収穫時期に数度の培土、手取り除草
・遮光を利用したホワイトアスパラガスの栽培
◎ ブルーベリー、カシス栽培の特徴
・春、鉢を起こす、抜き草。冬季は、鉢を倒して越冬、随時潅水
◎ 施肥の特徴
・発酵鶏糞(白老)、水産系堆肥(伊達堆肥センター)、魚粕、ソリブル(余市ミール工場)、バーク堆肥(赤井川)
◎ 農産物販売の工夫
・独自の名称でブランド化を図る
ホワイトアスパラガス「カルデラの貴婦人」
グリーンアスパラガス「カルデラの貴公子」
パープルアスパラガス「カルデラの紫宮女」
ニンニク「カルデラの完熟ニンニク」
・名称入りの箱、有機アスパラガス三色セットの設定
・有機野菜を販売している有名なお店・スーパーなどを書籍やネットで調べ、自ら訪問し、積極的に営業していく
・始めて5年ほどは、毎冬営業に出向いて、販路を自ら開拓。
・現在、有機野菜を取り扱う会社等20社余りと取引
・様々な形で、存在をアピールする工夫を常に考え努力し続ける
・特徴のある名刺は効果抜群!ヒゲもアピールポイントのひとつ。バイヤーは数えきれない生産者と会っているため、自分を覚えてもらうための印象付けは重要
左:手作りのガスパーナーで雑草の種を焼く
中左:ブルーベリーの鉢を冬に備えて倒す
中右:印象に残るアスパラガスのオリジナル商品名
右:赤井川ニンニク部会のメンバー
▶ 総合討論・意見交換
・除草対策について
・出面さん・人材派遣の確保について
・「ドイツで行われた農業機械のプレゼンで、最も注目を浴びたのが日本の除草機械。日本の除草技術は、世界で最も優れていると感じている」と笛木氏のお言葉。有機農業の明るい未来が感じられるようなお話
・除草機械の製造をする専門メーカー「株式会社キュウホー(北海道足寄町)」の紹介(除草機の動画はこちら)
・有機農産物の販売路の開拓方法について
・思っている以上に「消費者は「有機農産物」を待っている」という現状紹介
・ホームページ等、インターネット上の情報発信の大切さ
・恐れず、ダメだと思わず、相手が大会社であっても、とにかく飛び込んで自分の生産物を売り込めば道は開ける
パネルディスカッション
▶ まとめ
◎ 笛木伸彦 氏:
次第に有機農業の良さが浸透してきた中で、生活が安定する有機農業経営の方向性が求められる世の中になってきたことを嬉しく感じています。
◎ 黄倉正泰 氏:
困難の多い有機農業を、家族の支えがあるからこそ、こうして続けられることに心から感謝しています。家族経営の良さを実感しています。
◎ 滝本和彦 氏:
ハードルを低くして、何にでもチャレンジしています。「食はいのち」という考えのもと、お客さまの生命を預っているという気持ちで、一生懸命、根気と情熱をもって取り組んでいます。
◎ 飯澤理一郎 座長:
北海道有機農業研究協議会は、1990年に私が発起人としてスタートし、23年が経過。当時は有機農業は、煙たがられる存在でしたが、世の流れが変化し、今ではあたりまえの農業になり、むしろ積極的に求められる農業になってきたことを大変嬉しく思います。
これで、私はこの3月大学を心置きなく去ることができます。これも皆さんの様々な努力の結果だと心強く思っております。今後とも有機農業の発展のために、皆さんが色々な形で努力されることを心より願っております。今日はありがとうございました。
パネルディスカッションの様子
お話の一つ一つが、大変貴重で有意義な、素晴らしいものばかりで、大変勉強になりました。
日本の有機農業に対する皆さんの熱い志がじんじん伝わって来るような大会でした。
ありがとうございます。
生命を育み、生命を届ける有機農業
これからの日本の農業を支え、生命輝く有機農業に
偉大なる尊敬と感謝と祈りをこめて。。。
北海道大学農学部の趣ある風景
◆ 特定非営利活動法人 北海道有機農業研究協議会 <ホームページ>
・札幌市中央区北2条西1丁目10番地 ピア2・1 5階
・011-210-6768
・詳細情報はこちらから検索(内閣府NPOデータベースより)
◆ 参考資料
・環境調和型・自然生態系農業『北海道有機農業技術研究年報』平成25年2月(北海道有機農業研究協議会 編)
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撮影=寺内昇 取材・文=寺内郁子