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・北海道審査会・黒澤不二男 審査委員長講評
審査講評:日本農業賞北海道審査会・黒澤不二男 審査委員長(北海道地域農業研究所 顧問)
ふっくりと炊きあがった新米の香りに食欲をそそられる季節を迎えたが、今年4次にわたる台風の襲来によって北海道農業は大きな被害を受けた。幸いにも、その根幹をなす稲作作況は「平年並み」か「やや良」と予測されている。
本道稲作農業は、これまで頻発した冷害や気象災害、経済恐慌等の影響を受けながらも、たゆむことなく数々のコメ耐冷性品種を創出してきたほか、水利システム整備、泥炭・重粘土壌の改良、栽培法改善や「農事実行組合」の組織化等によって、他に類例のない『寒冷地稲作農業』を築き上げてきた。
農業者、農協組織、研究機関、普及組織、行政などの血のにじむような努力が結実した結果、平成27年産でみても首位の新潟県に比べ総生産量こそ約1.6万トン下回るが、単収水準は559kgと新潟の522kgを大きく凌駕しており、直近6年間の作況指数も常に全国平均を上回っている。また課題であった食味についても、「ほしのゆめ」はじめ、「ななつばし」、「ゆめぴりか」など特Aランク級の投入によって、今や質・量ともに全国屈指の産地となった。以下に紹介する取り組みは、この系譜を引き継ぐ北海道稲作農民による内発的チャレンジの代表・先駆事例である。
1. コメ産地としての北竜町の特性
北竜町は稲作中核地帯の北空知地域にあり、農協組織「きたそらち農協(1市3町の広域農協)」の北竜支所に属する。農家戸数200戸、人口2,100人余の小さな町だが、まちづくりのシンボルマーク「ひまわり」は農産物ブランドロゴ、地域景観の形成、25万人を超す観光客の誘因としてよく知られ「日本一のひまわりの里」として親しまれている。
この「ひまわり」を冠したのが「北竜ひまわりライス生産組合」である。暑寒別岳山麓に立地して山間地域比率が比較的高いことから、稲作にとってやや厳しい条件下にあるが、この克服が逆況を跳ね返すバネとして、全町営農集団化などに代表される様々なチャレンジの源泉、「ひまわりライス生産」もそのインセンテイブとなつているのである。
2. 活動のバックボーン「自主・自律」
作物生産のみならず農村地域づくりの先駆的取り組みを展開してきた北竜町だが、この活動の直接的端緒は、約30年前に危機意識をもった農協青年部の有志が、札幌市民生協(現コープさっぽろ)との連携を模索したことから始まっている。その後の活動の展開をみても行政や農協組織の誘導・指示ではなく、生産者自らが発案し、それが農協組織や行政を動かしてきたこと、すなわち自主性、自律性が高いのが特徴であ
る。
3. 「安全」「安心」担保を町ぐるみで徹底追求
札幌市民生協や九州グリーンコープの組合員の「味だけではなく、安心して食べられるおコメの供給を」という声に真摯に耳を傾けた青年部の働きかけを受け、町内の生産者、関係機関が続々と賛同し、全町を挙げてクリーンで安全・安心のコメづくりを目標とした活動を精力的に展開してきた。一部有志の「有機栽培米」、「有機無除草剤米」という点的な取り組みを、全町規模での有機栽培米の栽培、いわば面的取り組みにステップアップさせた。
4. 活動展開のための課題整理と組織化対応の強化
水稲生産の転換点となった平成15年の「米政策改革大綱」を契機に、徹底した自主検証から摘出された課題のうち、生産・販売販売の主体性希薄や需要拡大の努力不足について重点的に改善・強化に取り組む方針を策定した。それを担う主体として既存の組織の統合・機能拡大を担う運動体として水稲生産者全戸による「北竜ひまわりライス生産組合」を誕生させたのである。
5. 町内全域で無農薬栽培の展開
使用農薬を道内慣行22成分使用から11成分以下に抑制、種子の温湯消毒、生物農薬の利用、施肥レベル節減に伴う労力負担増、生産力低下などが懸念されたが、創意に富む種々の除草機の利活用、周到な土づくり、土壌診断の徹底、適切な発生予察、生物農薬の利用、機械防除(ドロオイクリーナー)などを総合化した栽培体系により、「低農薬栽培(農薬節減米、特別栽培米、有機JAS米)」は、平成27年では85%、28
年には91%に達している。さらに28年から施肥レベルを特別栽培なみにする「高度クリーン栽培」にもチャレンジしている。
6. 「ひまわりライス」ブランドの構築と独自販売システム
本道で生産されるコメのうち大半は、全道70カ所の農協営共同処理施設(カントリーエレベーター、ライスセンター、ばら調製施設)に持ち込まれ、系統販売ルートで道内外に向けてホクレン等により「北海道ブランド米」として販売(全道共計システム)されるが、北竜町では、生産されるコメのうち「ひまわリライス」は生産組合が独自に販路開拓した実需者に販売され、生産者は実需者を、実需者は生産者を認識で
きる「顔の見える関係」を構築している。
このシステムを支えているのが、平成17年に5.4億円(生産者実負担は僅少)で大改修・機能強化を図った「玄米ばら集出荷施設」で、色彩選別、全品種小分け、 トレサビ対応等が可能となり、実需者のニーズにきめ細かく(うるち103種、もち12種)対応しているのである。
このひまわリライスの27年販売実績は32,000俵、仕向先は道内59%、関西18%、関東15%、九州・沖縄8%と全国に展開している。
7. 「生産情報公表農産物JAS」の導入
「農産物の生産履歴に冠する情報を意欲のある事業者(農業者)が消費者に伝えることを第3者機関が認定するJAS規格システム」として、農水省から平成16年に提起されたのを受けて「ひまわリライス生産組合」は18年より採択・実施に踏み切つた。町内全域で取得しているのは、全国最初であり、かつ唯一で、消費者に「パーフェクトな安全・安心の担保」を提供したいという熱い信念の具体化であった。関連データベ
ースと処理施設の情報を統合化した情報の提示は、そのコメの識別コードを入力すると、生産者名、栽培区分、品種、使用農薬、肥料、栽培履歴詳細などがビジュアルに出力されるこのステムは極めて画期的なものと評価してよい。
8. 品質・食味の追求とその保証
清冽な水源、こだわりの栽培法、システム的な調製・保管・出荷により消費者に届けられる「ひまわリライス」は、厳しい整粒区分、食味を左右するタンパク数値は7.5%以下、完全な低温保管などにより、その品種の最高の食味が発揮されるよう処理されており、安全・安心はもとより食味においても極めて高い評価を受けている。その証左として「ふるさと納税」の返礼品として急伸しており、コメ部門では北海道の首位にランクされている。
9. 「ひまわりライス」ブランド化と独自販売システムによる経済効果
ホクレンに結集する北海道米の販売(系統共販)戦略を構成するメンバーとしての役割を果たしながらも、「ひまわりライス」というブランドで農薬節減米を独自の方式で販売、1俵当たりの販売単価で系統共販のそれを上回る経済効果を発揮、年次によって変動はあるが、総額で約6千万円、 1戸あたりで40数万円の所得増を実現している。このことは、系統共販から離反することを意味せず、農協集荷率が100%という数
値が示すように農協系統組織を支えることにつながっていることに注目すべきである。
いまや「ひまわりライス」ブランドが地域の他の農産物の販売促進にも大きく機能し、地域の活性化に寄与している。これらは、生産組合を中心とした積極的な販促活動が、地域商工業者はじめ全住民の参画・連帯意識を高める誘因となっている。
「ひまわりライス」生産組合は、農産物市場のさらなる開放化が予測されるなかで、「食べ物はいのち(生命)である」という原点。理念を愚直なまでに貫き通して、様々な工夫と創意をこらして困難を克服しながら新たな生産体系を創出したものであり、とかくの批判にさらされている農協活動にも一つの展望を与える取り組みであると高く評価したい。
「あなただけを見つめる」という「ひまわり」の花言葉にふさわしく、「安全・安心・美味」を求める消費者ニーズに対して、関係者全員、町ぐるみでひたむきに応えるという、この「ひまわりライス生産組合」の果敢な取り組みに敬意を表するとともに、日本農業賞に値するものとして北海道地区委員会は推賞するものである。
以上
黒澤不二男 委員長(第46回日本農業賞(集団組織の部)大賞受賞祝賀会(北竜町)にて)
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