2012年5月1日(火)
季節は、二十四節気「穀雨(4月20日)」から「立夏(5月5日)」へと向かいます。
大気温が上昇し、雪解けが進んでいます。
時折、恵みの雨が降ったり、止んだり。
太陽が顔を出し、青空が広がってきたと思うまもなく、一面、霧の世界。
温かい大地から立ち上る水蒸気が、冷たい空気に冷やされて霧となって広がっている・・・まるで、温泉の湯気のよう。
夏に向かう巨大な大地のエネルギーが放たれて、冷気を追いやっているかのようです。
こうした季節の中、北竜町の町のあちこちには、ビニールハウスが立ち始めました。
いよいよ、水稲播種作業のスタートです。
自然農法米・(有)田からもの(佐藤稔 代表)
(撮影:2012年4月25日)
会社組織で、若手社員を育てる佐藤稔 代表
今年、佐藤稔さんが代表を務められている「有限会社 田からもの」の農場で、有機栽培米の播種から収穫までの半年間を取材させていただくこととなりました。
佐藤稔さんが経営する農場の広さは、水田が26ha。内訳は、有機栽培米(0.64ha)、特別栽培米(14ha)。残り11.36haは、一般栽培米を作付け。
品種は「おぼろづき」「ななつぼし」「きらら397」「三種混植米(おぼろづき・ななつぼし・きらら397(※1)」。
(有)田からものの社員は、奥様の美佳さんと、2人の若手従業員である竹谷まさるさん(35歳)、森谷慶一さん(21歳)。佐藤さんは、若手をしっかりと指導し育てていらっしゃいます。
独身時代に看護婦さん(神奈川県平塚市)だった奥様の美佳さんは、20年程前に農業実習生として北竜町に来町、佐藤稔さんの農場で学ばれました。そして、めでたく佐藤稔さんのお嫁さん!!!
北海道七飯町出身の竹谷 全(たけや まさる)さん(36歳)は、農業未経験からこの農場へ来て6シーズン目を迎える働き盛り、独身です。そして、森谷 慶一(もりや きょういち)さんは(21歳)、秋田県の農業高校で農業を学び、雄大な北海道の農業に憧れて単身で北竜町へ、今年で2年目に入りました。
有機栽培法、農業経営など、あらゆる視点から佐藤稔さんのご指導を受けて、多くのことを学んでいらっいます。若くして、自然農法という難しい栽培法を、自ら学んでいこうとするお二人の真剣な行動力に頭が下がる想いです。
自然農法米「有限会社 田からもの」の皆さん
代表・佐藤稔さん(右)、奥様の美佳さん(中右)、森谷慶一さん(中左)、竹谷全さん(左)
食べものはいのち(生命)の魂が受け継がれる有機栽培米
〜田んぼのお米は神様からいただいた宝もの(田からもの)〜
曾祖父の時代から受け継がれた佐藤稔さんの農業。その農業に大きな影響を与えたのが「食べものはいのち(生命)」の魂。北竜町農協組合長、そして広域の農協合併後は、JAきたそらち組合長を務められた黄倉良二さんの教えです。
1973年(昭和48年)から開始した黄倉さんと故・後藤亮さんの農薬に頼らない自然農法に、大きく導かれていった佐藤さん。1984年(昭和59年)、それまで務めていた農協職員を辞職し、農業をスタート。
佐藤さんは、当時、農協青年部の部長として、積極的に米のPR活動を展開。その頃、多くの消費者から次第に求められていった流れは、安心安全な食べものだったのです。
そうした流れの中で1988年(昭和63年)、九州の生協から「除草剤を使わない米作り」の依頼を受けたのをきっかけに、北竜町はクリーン農業への道を歩み始めました。農民集会では「命と健康を守る農業」宣言が行われ、北竜町全体で、安心・安全なお米栽培が開始されました。
2004年(平成16年)には、町内全ての稲作農家が加入する「北竜町うるち米・もち米生産組合」が設立。
翌年2005年(平成17年)、組合として、北海道の慣行栽培基準(農薬22成分)の50%減である、農薬11成分とする米の出荷が可能になりました。
さらに、2006年(平成18年)には、組合としてシステムを整備し、トレーサビリティを認証する「生産情報公表農産物JAS規格」を取得。
そして2007年(平成19年)、「北竜町ひまわりライス生産組合」が誕生し、佐藤稔さんは組合長に就任。
現在、(有)田からもの代表取締役社長として農業経営される佐藤さんは、北海道指導農業士の有資格者であり、さらに北海道有機農業研究協議会常務理事・きたそらち農協監事を兼任されていらっしゃいます。
一方、佐藤さんご自身の取り組みとしては、1991年(平成3年)に有機栽培米の取り組みを開始。2000年(平成12年)には、有機JAS認証を獲得。
有機栽培への挑戦は、一年一年が試行錯誤の連続であり、悪銭苦闘の日々。特に有機栽培における大きな課題となる防除や除草作業については、約15年もの歳月をかけて作り上げた、合理的な有機米栽培体系を確立されています。
これらの技術が日本中に認められ、2008年(平成20年)に農林水産省第1回「農業技術の匠」に選定されるという素晴らしい評価も得られています。
今も尚、「食べのもはいのち(生命)」の魂を受け継ぎ、「国民の命と健康を守る農業」を実践し、努力し続ける佐藤さんのお米作りは守り抜かれているのです。
毎年繰り返される稲作、計り知れない自然を相手に向き合っていくお米作りだからこそ、一回一回が真剣勝負!
今年は、例年になく雪が多く、ショベルカーによる大掛かりな水田の除雪作業は3月末からはじめられました。
見渡す限りの雪野原。巨大なショベルカーが大きく雪を砕いていきます。2~3日除雪作業は続きます。
4月に入り、12棟のハウスが建てられました。水稲播種に向けての細かい作業が丁寧に進められていきます。
左:除雪作業(撮影:2012年3月21日) 右:連なるハウスたち
2012年の稲作がいよいよスタート
4月25日(水)、水稲播種作業スタート。
当日は、気温も上昇し、晴れ渡る青空。
春を告げるかのように、空高く響き渡る、雲雀のさえずり。
清らかに流れる雪解けの水音。清々しい空気が流れて行きます。
ハウス内では、ポット全自動播種機によって、「土入れ」「播種」「覆土」のスムーズな流れ作業。1枚のポット式育苗箱には、448個の小さな穴。ひとつの穴には2~3粒の種籾が播かれます。育苗箱はまとめられて、自走式電動トロッコに載せられてハウスへ。運び込まれた育苗箱は機械によって苗床に綺麗にならべられていきます。
苗が並べられたハウス内では、自動式水撒き機がゆっくりと潅水(かんすい)、1時間かけて6往復。
その後、温度調節をしながら、シルバーシートをかけて、約5日間くらい置いて苗の成長を待ちます。苗の成長過程で自根が根巻きしてしまうと、容器から苗を取り出す時に傷付けてしまう恐れがあるので、根巻き・根づまりをおこさないように、十分に注意することが大切とのこと。ハウス内の温度・湿度・水分補給等、細心の注意を払いながら、苗の成長を見守り続けます。
育苗箱は、全部で約13,000枚。播種作業は、およそ10日間かけて完了です。
左:播種作業 右:森谷慶一さん(21歳)
左:育苗箱に床土を入れ、種を乗せます。 右:種が育苗箱に播かれて、この後土を被せます(覆土)
育苗箱は、自走するトロッコでハウスへ運ばれます
左:6年目を迎える竹谷全さん(36歳) 右:育苗箱をハウスに敷き詰めます
敷き詰められた育苗箱に自走式の機械で散水(6往復)
栄養たっぷり・大地の雪解け水が、ひまわりライスを育てます
温かな土のお布団に包まって眠る、生まれたばかりのイネの赤ちゃん。
たくさんの愛情を一心に受けて、大切に大切に育てられるイネの赤ちゃん。
元気いっぱい育ってね!
偉大なる太陽の光、豊かなる大地、清らかな水、
命育むすべての偉大なるエネルギーの上昇に
永遠の愛と感謝と笑顔をこめて。。。
大地に降り注ぐ輝く陽光
※1:北竜町産の「三種混植米」は、中川米穀(株)(札幌市)で販売されています
◆ 有限会社 田からもの(代表取締役社長 佐藤稔)
北海道雨竜郡北竜町字惠岱別
Tel・Fax:0164−34−3710
◆ 関連記事
・有機栽培米の収穫(有)田からもの(佐藤稔 代表)(2012年10月5日)
・JICA北海道・札幌の研修員(タジキスタン、ウズベキスタン)が田からもの(佐藤稔 代表)で研修(2012年7月24日)
・神奈川県の高校生が田からもの(佐藤稔 代表)で農業体験(元気村・夢の農村塾)(2012年7月11日)
・有機栽培米の田植え・除草(有)田からもの(佐藤稔 代表)(2012年6月24日)
・特別栽培米・おぼろづき(北海道北竜町産)の新米が満天☆青空レストランで紹介されました(2011年10月22日放映)(2012年10月22日)
・佐藤稔さん(田からもの・社長)農業技術の匠として有機栽培米を育てる(2011年6月6日)
・北竜町産ひまわりライス紹介ページ
◇ 撮影=寺内昇 取材・文=寺内郁子