2016年8月4日(木)
7月30日(土)午後2時より、大林千茱萸(おおばやし ちぐみ)監督の映画「100年ごはん」の上映会 & トークショーが北竜町公民館・2階大ホールで開催されました。北空知圏地場産農産物利活用推進協議会の主催。後援は、1市4町(深川市・妹背牛町・秩父別町・北竜町・沼田町)です。
「100年ごはん」パンフレット
▶ 上映に先立ち、佐野豊町長のご挨拶
北竜町・佐野豊 町長のご挨拶
「大林千茱萸監督をお迎えし、映画『100年ごはん』が北竜町で盛大に開催されますことを心より感謝申し上げます。
昨年4月より、1市4町(深川市・妹背牛町・秩父別町・北竜町・沼田町)における広域で、給食センター北空知を運営しています。その中で、地元の食材を利用して子供たちに食べさせたいということで、北空知圏地場産農産物利活用推進協議会が設立されました。今日は岡崎正昭 会長(拓殖大学教授)に出席していただております。
北空知圏地場産農産物利活用推進協議会では、新しい野菜、今まで食べたことのない食材を開発を検討している所です。
協議会では、映画「100年ごはん」を通して、北空知1市4町の住民の皆さんに、食育の大切さを広めて頂きたいということです。映画の内容につきましては、革新的な農業に挑戦する大分県臼杵市の市民の皆さんの記録映画です。
大林千茱萸監督は、『はじめの一歩は100歩分』『食べることは生きること』『食は未来へ繋ぐいのちのバトン』とメッセージも出されております。この「100年ごはん」の映画を通して、現代の食について『何が大切なのか、本物なのか』を学んで戴ければと思います。
映画終了後は、大林千茱萸監督と深川市で野菜ソムリエとして活躍されている溝口めぐみさん(ふかがわ地域資源活用会議会長)とのトークショーも予定されておりますので、最後までゆっくり楽しんで頂きたいと思います。本日は宜しくお願いいたします」と佐野町長。
▶ 映画「100年ごはん」上映
映画「100年ごはん」上映
「地元野菜で子供達にほんまもんの給食!」を実現するために、人口4万人の町臼杵市が着手した壮大な取り組み・有機農業へのプロジェクトである「土づくりセンター」の設立!「人を育てるための土づくり」・・・草木8割、豚糞2割の割合で約6ヶ月発酵熟成させた完熟堆肥「うすき夢堆肥」をつくる堆肥工場でした。
その取り組みを4年間にわたり記録し映画化したものが、今回上映されたドキュメンタリー映画「100年ごはん」です。監督は、大林千茱萸監督。
大林千茱萸氏は、映画監督大林宣彦氏の長女であり、映画プロデューサーである大林恭子氏を母に持ち、家族ぐるみで映画業界の環境の中で育つ。小さい頃から食べることが大好きで、料理への興味は尽きることなく、10代の頃より「天皇の料理番・秋山徳蔵氏」の最後の弟子にあたり、元宮内庁東宮御所大膳課、皇太子殿下と同妃殿下の主厨を勤めていた渡辺誠氏に師事。食事、テーブルマナーからプロトコール(国際儀礼)まで、広く食文化を探求するための【西洋食作法と美食の教室】を主宰。また、ビデオのキャメラマンとして活動し、ライブ映像や邦画のメイキング撮影などにも手掛けていらっしゃいます。
そうした映画活動の中で紡がれた臼杵市とのご縁。。。
大林千茱萸氏のそれまでの経歴を熟知していた臼杵市前市長・後藤国利さんからの映画作成の依頼でした。
4年間の歳月をかけ、取材を重ね記録を取り続けて誕生したドキュメンターリー映画「100年ごはん」・・・
有機農業に取り組む生産者の人々の苦労はもとより、林業、給食センター、堆肥工場設立に至るまでの営みが、そこに住む人々の暮らしへと広がっていき、100年後の未来への語りかけとして描かれています。
▶ トークショー:大林千茱萸 監督 & 溝口めぐみさん(深川地域資源活用会議会長)
トークショー
司会者より大林千茱萸監督・溝口めぐみさんのご紹介がありました。
▶ 大林千茱萸 監督:
東京都生まれ、現在、映画家・料理家としてご活躍。11歳で大林宣彦監督作品「ハウス」の原案を担当、14歳から映画の宣伝に関わり、独自の映画論を雑誌、新聞、テレビ、ラジオ、インターネットなど幅広く展開。料理家としては、「天皇の料理番」を務めていた渡辺誠氏に師事し、フランス料理と西洋食作法教室を主催。また「ホットサンド倶楽部」を主催しFacebookに公開。今では7千人の部長を努めていらっしゃいます。
▶ 溝口めぐみさん(深川地域資源活用会議会長):
ふかがわ地域資源活用会議は、地域資源を活用し、地域経済の活性化と活力の向上を目的とした団体です。本日配布した「黒米」も地域資源のひとつです。ご自身も生産者であり、安心安全な食・農について、地域を通して何ができるか、女性農業者・経営者としてPR活動をされています。
・溝口めぐみさん:
北海道女性農業者ネットワーク「きたひとネット」で事務局をしております。今年1月に開催された「きたひとネット」のフォーラムで「100年ごはん」の上映会があり、そこで大林千茱萸監督とお逢いするきっかけとなりました。映画「100年ごはん」と作るきっかけになったことをお話ください
トークショー風景
・大林千茱萸監督:
この映画は65分の上映時間ですが、実は4年間かかって撮った作った映画です。使える映像は120時間超えています。この壮大な取り組みを何故私が、というお話ですが。
私は料理の仕事にも携わっており、みなさんからいつも「このスプーンのようなネックレスは何ですか」と質問されます。小さい頃から食いしん坊で、食に対する興味が強くて、10代の時に「天皇の料理番」とされる渡辺誠氏の直の師匠としてフランス料理を学びました。
大林千茱萸 監督
1997年、20年程前に大分県臼杵市と出逢いました。全国植樹祭が大分県で開催されることとなり、植樹祭の総合演出を父親が引き受けることに。演出のテーマを決めるために家族全員で大分県内各地を取材して回り、そこで臼杵市を訪れました。最初に訪れたのが夏で、かぼすキャンディー売りに出逢い、秋には焼き芋売りに出逢いました。それを売っていた麦わら帽子のおじさんが、臼杵市前市長・後藤国利さんだったのです。
その後、当時私は100人程のスタッフの食事担当となっていました。毎日、農家の人々の所に出かけ、1円でも安い食材を探し求めて畑を歩き回っていました。その様子を市長さんがご覧になっていたのです。その後10年間臼杵市とのご縁が途切れ過ごしていました。臼杵市では、私と出逢った10年前から、地元の食材で子供達に給食を食べさせたという動きがありました。しかし当時9割が慣行農業であり、有機農業は難しかった。しかし継続していくことが重要と考え、途切れることなく様々なことをつなぎあわせていった後藤前市町。現市長・中野五郎氏とのバトンの受け渡しもしっかりされていました。
後藤さんが市長を退任されてから、私に映画を作って欲しいという話を頂いたのは2009年秋でした。後藤さんからお電話をいただき、渋谷の喫茶店に呼び出され、3時間熱い想いをお伺いしました。そして、後藤さんから「臼杵市の取り組みを映画にして欲しい。監督は、食材を理解し料理に精通している映画監督、大林千茱萸さんにお願いしたい」と言われ、映画作成がスタートしました。
・溝口めぐみさん:
「子供たちの学校給食に地場の食材を」という動きは、臼杵市だけでなく、全国各地に広まっています。その影響力は大きいと思います。
溝口めぐみさん
・大林千茱萸監督:
臼杵市でこの映画が2013年にスタートして、2015年には、学校給食の食材の5割が臼杵産のお野菜で、その半分が有機農産物です。映画の成果はあると言えます。
このドキュメンタリー映画は、一人の主人公を追うストーリーではありません。実際臼杵市には有機栽培の達人がいて、ユニークな人生を描くことはできたのですが、一人の人生の物語で終わってしまうわけにはいきません。
この映画の主旨は、100年先に繋いでいくものだったのです。様々な事象を並列にならべて、追いかけていき、「食を通じてバトンを渡していくこと」を軸としました。JAの職員、市民、市役所、父兄、子供達、給食センターの方々など様々な方々の活動が未来に繋げていく所にヒントが隠されていると考えました。
・溝口めぐみさん:
この映画製作の4年間は最初から想定されたものだったのですか?
・大林千茱萸監督:
まさか4年もかかるとは誰も想定してませんでした。しかし、依頼された後藤さんは、期限に関して何も言わなったのです。この映画が失敗なのか成功なのかは、100年後にならないと分からないことかもしれませんが、2016年までに学校給食の食材の3割が有機農産物に移行できることを想定したましたが、去年2015年には5割という結果がでているので、とりあえずは成功したといえるかもしれません。
・溝口めぐみさん:
北海道の農業において、有機農業に対する考え方も色々様々だとおもいます。
・大林千茱萸監督:
有機農業が良いとか難しいと様々なことを削除していくのではなく、消費者に生産者の想いが届いていないことが多いと実感しています。
・溝口めぐみさん:
有機栽培の難しさは、見ているだけでも一生終わらないのではないかと思うほどですが、そこにはやり抜いていこうという強い信念があると思います。子供達のことを思うとやれるかもしれないと今日映画を見ていて感じました。農業者にとって、これがいいとかわるいとかではなく、子供達に安心安全な食糧を作っていくという一本のまっすぐな筋が通った本音の部分が描かれた映画だと感じました。農業は30年間やっていても30回しかできない職業ですし、毎回同じではないし、天候など様々なものに左右されやすいのが農業です。
大林千茱萸 監督
・大林千茱萸監督:
「土づくりセンター」をつくるのに1年かかっています。2年目は、センターで半年かけて完熟させた堆肥を供給体制にするのに約1年を費やしました。3年目は、それまでに準備していた畑に、堆肥センターで作られた完熟堆肥を畑に鋤き込み、土壌を整えるのに約1年かかりました。その畑で栽培した春夏秋冬の野菜ができるまでを追うのに1年かかりました。さらに、関わってきた人々を追っていきました。
こうして、吸収したものが、どのように消費者に伝わっていくのか、消費者がどう思うのかが大切です。入ってきたものを出口に誘導していき、すべてが回っていく流れが大事です。すべてのものが切り離しては考えられないことです。
これが、リビングハーモニーの考え方です。それぞれの役割に無駄がなく、それぞれを重ねていき到達するのに4年の歳月がかかりました。
最近の映画や本には、これ駄目、あれ駄目、駄目駄目なものがすごく多くて、駄目なものを知ることはいいのですが、駄目なものに意識を取られて、時間を費やすことがとてももったいないと感じています。自分のできることは、いいものを全国的に広めていきたいことです。
・溝口めぐみさん:
それぞれの市や町には、いいものが沢山あります。
素晴らしい食材が目の前にありすぎて気づかない。いい空気があって、美味しい水があって、とてもいい環境なのに気づかないことが多いと思います。臼杵市の場合も、東京からきて頂いた大林千茱萸監督が、何をやっているのだろう?どうしてこの街なんだろう?と疑問に思っていたのではないでしょうか。だけど映画が完成し、映画を通して、自分たちの住む街の素晴らしさを実感したのではないか思います。
私達も地元にいて気づかないことも、市外町外道外から訪れた人々の活動が、地元私達にとって気づきのひとつになっていると感じています。そういう人々とタッグを組んで色々やっていくことが、広がりのある活動に繋がり、プラスになって色々な人々に影響を与えていきます。
溝口めぐみさん
・大林千茱萸監督:
この映画上映は今日で150か所となり、北海道から沖縄まで全国各地、アメリカ、イタリア、スリランカなど海外を巡っています。個人宅から1,000人単位のホールまで会場は様々で、毎回が一期一会の出逢いがあります。
どこでも共通するところは、当たり前の中にどれだけ宝物があるこということに皆が気づいていないことです。「何を撮っているんですか?どこが面白いんですか?」とよく聞かれました。映画の取材中は関心を示さなかった地元の生産者の方が、完成映画を見終わった時に、「今まで、当たり前に農業をやってきたが、自分が農業に対して何をやっているのかがやっと理解できた」と言って目を真っ赤にして、真っ先に握手を求めてきたことに感動しました。
生産者の方は、農産物を作ることが当たり前すぎて、それがどこで売られ、どんな人に買われ、どんな風に料理され、どんな人が食べているのか、どんな影響をおよぼすのかという全体の流れを想像したことがなかったようです。
日本は小さなそれぞれの島でできていて、外からの風潮に弱い傾向があります。外で評価されると、やっとその価値に気づいて見なおしていく所があります。もうそろそろ、自分たちの素晴らしさを見直し、気づいて、前に打ち出して行かなければならない時期に来ているし、回していかないと次に繋がっていかないようなギリギリの所に来ているように感じています。
多かれ少なかれ、遠く近くは関係なく、自分の足元で起きていることをもう一度考え直して、軌道修正する時期にきていると思います。
・溝口めぐみさん:
地産地消とは、「地元で育った人が、地元の美味しい水、地元の美味しい空気、地元の土で作られた野菜を食べて、健康になること。その地で生かされていることに気づいて、身体にその地のものを取り入れていくことが一番身体に合っていることなのです」と、大先輩の女性農業者の方に言われたときは、はっと考えさせられました。
ただ目の前ものを作って売ることだけを考えることは自分が良ければいいという考えにとどまり、そこから繋がっていかない。考えをもう少し広げて、子供達の食育などに繋げていけば、様々なことを伝えることができるし広がっていける思います。
この映画上映は、北海道では今日で8ヶ所目です。沢山の人々がこの映画を見て、感じたことをそれぞれの人々に伝えていくことによって、北海道の自然の中で、北海道らしい良さが広がっていけばいいなぁと思います。
トークショー模様
・大林千茱萸監督:
「100年ごはん」というタイトルから100年後のことを想像してしまいますが、100年の未来を考える時に、そのヒントは過去にあります。例えば、富山のワークショップの時には、子供達が「100年前のごはん」を作って両親に食べてもらうイベントでした。100年前日本で一番流行っていた食べものは「コロッケ」だったそうです。今でもコロッケは庶民的たべもので、あまり100年前と変わっていない事になります。
日本の添加物に関しての問題は山積みです。サラダを食べる時も、食べる前にドレッシングをかけてしまい、野菜そのものの味をじっくりと味わっていないように思います。消費者は「速い・便利」なことに向かってしまっているので、もうひとつの考え方として「食べ手を育てる」活動を進めています。消費者に農業が離れてしまっていると感じているので、もう一度繋ぎ直して語り合うことが必要。臼杵市の場合も、「はじめの一歩」は、基本的に「話し合う」ところからスタートしました。100年単位の取り組みであるといえるのは、話し合いに5年も6年もかかっているからなのです。一歩一歩、はじめないと始まらない。出来ることを、まず一歩踏み出すことです。
会場風景
▶ 質問やご意見・ご感想
北竜町在住の農業者である尾崎佳子さんよりご感想を頂きました。
尾崎佳子さん
「新規就農で農業をやり始めたのは20年前。1年単位で結果がでてくるのが農業です。でも、違う!大きく見たら100年はそんなに遠くないということを最近つくづく感じています。農業は毎年1年生でやっていますが、もっと宇宙規模で考えてもいいんじゃないかと感じています。今は種を撒いたばかり、根も出てきてないので、これから一緒に地域ぐるみで取り組んでいけたらいいんじゃないかなぁと思います。ありがとうございました」
▶ 旭川市で8月21日上映会「100年ごはん」
・溝口めぐみさん:
今日この映画をご覧なれなかった方、もう一度見たい方は、8月21日旭川でお食事付きで上映されます。
是非ご覧ください!(参考:LINER WEB)
▶ 大林千茱萸著「未来へつなぐ食のバトン」販売&サイン会
大林千茱萸著「未来へつなぐ食のバトン」販売&サイン会
大林千茱萸 監督のサイン
生きとし生けるものが共存し調和し繋がっていく生命の循環、
はじめの一歩を踏み出し、行動して撒いたひと粒の種が、
日本全国、世界へと広がって、可憐な花を咲かせることを
心よりお祈りいたします。
北竜町ひまわりの里(撮影:2016年7月26日)
▶ 写真(39枚)はこちら >>
◆ 関連ページ
・100年ごはん・公式ホームページ
◇ 撮影・編集=寺内昇 取材・文=寺内郁子