2010年10月22日(金)前編 10月4日(月)、突然かかってきた一本の電話。「札幌学院大学人文学部の学生ですが、北竜町について研究をしているので、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」。 次の日、町役場の事務所で、内田司先生(札幌学院大学人文学部人間科教授)とともに6人の学生さんとお話することができました。テーマは「地域におけるまちづくりの取り組み」です。 今回は、その研究報告が、札幌学院大学で開催されたシンポジウム「北海道の地域社会再生と活性化―地域社会再生とは何かについて考える―」で発表されると伺い、聴講させていただきました。 空にそびえるG館を臨む @札幌学院大学(北海道江別市) 札幌学院大学は江別市に所在し、近くには野幌森林公園や北海道立図書館もあり、大自然に囲まれ学術施設が充実。5学部9学科文化系の総合大学で、緑多い恵まれた環境の中、およそ4,500人もの学生が学んでいます。 訪れた日、キャンバス中庭では、50年記念館が真っ青に澄み渡る秋空にそびえ立っていました。芝生の上で語らう学生たちの姿が、懐かしく感じられます。 シンポジウム会場は、3号館第二会議室。松岡昌則先生(北海道大学院文学研究科教授)のコーディネーター・司会、クリス・ヒギンズ氏の基調講演に続き、地域社会再生に関する3人の方々の発表・報告が行われました。 ◆「スコットランド高地・島嶼部開発公社のコミュニティ再生政策と活動」 クリス・ヒギンズ氏(スコットランドHIE文化・第3セクター部・部長) クリス・ヒギンズ氏(スコットランドHIE文化・第3セクター部・部長) クリス・ヒギンズ氏(Mr. Chris Higgins)は、英国ロンドン生まれの60歳。現在、スコットランド高地・島嶼部開発公社(Highlands and Islands Enterprise:以下、HIE)の文化・第3セクター部・部長であり、スコットランド高地・島嶼地域の地域おこしのスペシャリストでいらっしゃいます。 HIEは、1991年創設。スコットランド政府の運輸・生涯学習省から財政援助をうける政府機関です。団体としては、旧スコットランド開発機関と旧スコットランド職業訓練機関を統合したものであり、40年以上もの活動歴を持っています。政府の一機関が、同じ仕事を40年以上継続することはとても珍しく、世界でもHIEだけとおっしゃっていました。 HIEは、スコットランド北部のハイランド地方および島嶼部に活動範囲を絞り、過疎地域における新規ビジネスの奨励・援助、そして軌道にのせることを目的に活動しています。 HIEの特徴として、経済的開発、社会的開発の二つの側面を取り扱っていることを挙げられました。一般的には経済的開発のみを目指すことが多いからです。何故なら、HIEでは地域住民の社会構造の変化は、経済的変化を伴うものだと定義しているからです。 年間予算は、5,500万ポンド(約71億5,000万円)、住民一人当たりに換算すると、約1,300ポンド(169,000円)、300人の職員で運営されている組織です。 ヒギンズ氏のお話は、まず、スコットランドと北海道の地理的、社会的状況が似ていることを指摘されました。都心部からの距離、人口の少なさ、人口密度の低さ、寒暖の差が大きいなど、類似点が多いのです。 HIEの業務内容は次の4つ 1.地域にビジネス(コミュニティ企業)を興すこと 2.補助金とアドバイスで、地域のリーダーを育成すること 3.市場をグローバルに拡大すること 4.コミュニティ企業を活性化すること HIEが、ビジネス分野として重視しているのは「環境」と「文化」です。映画、音楽、アーティストなど独創的な要素が盛り込まれていく分野です。 地域環境の中で現在もなお生き続けている文化が、その地域の環境と重なり、重なり合わさったところに新しいビジネスが生まれる。つまり、常に全体をひとつとして考えていく戦略を構築するのです。図にすると、文化の輪と環境の輪が重なり合った部分の新規事業が、卵のように見えることから「鳥の巣の卵作戦」と名付けていました。 ヒギンズさんの仕事は、こうした戦略に基づき、地域のリーダーに対して指導・アドバイスを行い、助成することです。 その地域の住民が、10年~15年継続して発展できる事業の開発を行っていきます。それは、HIEならではの新規事業開発です。政治の影響を受け易い自治体(行政)では、継続してサポートすることが困難なことが多いのです。 HIEでは「コミュニティ企業経営指導システムアカウントマネジメント(和訳)」と呼んでいます。 HIEの成功例として、風力発電の起業があります。最悪の経済状況にあった地域の、島の半分の土地をHIEが買い上げ、地域のリーダーを育成・指導し、風力発電の起業を支援したのです。今では、数十万ポンド(数千万円)の利益を挙げ、地域の活性化に大きく貢献しているとのことです。 スコットランドが北海道と類似性をもち、そこの地域ならではの再生活動が継続されていることを初めて知り、驚きました。このような、地域ならではの活性化活動について、多くの事例を学び、情報発進していくことの重要性を深く感じました。 ◆「グリーン・ツーリズムによる新たな経営戦略と地域農業の展開(長沼町)」 大野剛志先生(旭川大学保健福祉学部助教) 大野剛志先生(旭川大学保健福祉学部助教) 続いて、大野剛志先生(旭川大学保健福祉学部助教)の「グリーンツーリズムによる新たな経営戦略と地域農業の展開」の報告発表がありました。 夕張郡長沼町の農村におけるグリーンツーリズム(幅広い都市と農山漁村との交流)による新規参入者3世帯の取り組みについての事例でした。 新規参入者とグリーンツーリズム(新たな農業)導入がもたらした、地域の変化及び活性化についてのお話です。 長沼町における新しくスタートした代表的な取り組みをあげられました。 1.営農集団という組織の確立 2.補助金をつかった新しい事業の展開 3.グリーンツーリズムの導入 そして、グリーンツーリズムにおける新規参入者3世帯の取り組みについての紹介がありました。 1.有機トマトの栽培(64歳、経営農家) 2.ブルーベリー栽培(54歳、元コンピューター技師) 3.農家レストラン経営(72歳 元札幌大手流通企業副社長。グリーンツーリズムのリーダー的存在) こうした新規参入者の特徴的ポイントは、新規参入者ゆえのオリジナリティーが築かれたこと、さらに、地域に新しい農業に着手する契機が生まれたことです。 有機トマトなどの有機野菜の栽培・販売は、直売所の所得向上につながっていきました。そして、農業レストラン・直売所、さらには、女性グループによる新たな農産物加工品の製造販売へと発展したのです。 また、中学生に対する農業体験の実施は、農業の学びを進めました。また、市民への農園提供と相まって、労働力の不足を新たな形で補うことができるようになりました。 こうして、新しい農業の形が提案され、長沼町の農業は、都会的で美しくおしゃれなイメージへと変化していきました。 結論として、新規参入者とグリーンツーリズムが地域発展に与えた影響とは、 1.新規参入者が地域にアドバイスをすることで、直売所における生産・加工・流通・販売などの全行程を住民が自らできるようになった 2.新規参入者の活動が地域農民に刺激を与え、地域住民が自らアクションを起こす切っ掛けとなった 3.定年退職者(新規参入者)の技術・アイデアなどの蓄積された能力は、地域の新しい力になり得る 新しい風が流れ込むことによって、今までになかった新たな動きが始まる実証例として、学ぶところが多い研究報告でした。 ◇ いくこ&のぼる |