2016年3月24日(木)
3月12日(土)、北海道帯広農業高校農業科学科の生徒さん達5名(黒千石分会)が、松本奈緒子 先生と共に、北竜町の黒千石事業協同組合・高田幸男 理事長を訪問しました。帯広農業高校は、映画にもなった酪農青春グラフティー「銀の匙」の舞台高校です。
JR深川駅で高田理事長と待ち合わせをし、黒千石事業協同組合の工場見学後、サンフラワーパーク北竜温泉へと向いました。北竜温泉1階のショップで販売されている黒千石商品を視察。そして2階会議室にて、高田幸男理事長のお話を伺いました。
サンフラワーパーク北竜温泉からの見る冬景色
サンフラワーパーク北竜温泉・ショップで販売されている黒千石商品を視察
帯広農業高校2年生がグループで取り組むプロジェクト学習「黒千石分会」活動の一貫です。
「黒千石分会」グループの5人が取り組んだ活動は、栄養価が高く健康食品として注目されている黒千石大豆の栽培、そして六次産業化への挑戦としての黒千石豆腐作りです。
帯広農業高校黒千石分会活動レポート
黒千石栽培では、圃場に試験区4区画を設け、生育の違いを調査しました。
試験区は、標準施肥区、追肥区、減肥区、無施肥区の4区画で施用量の違いによる生育調査を実施。各区画圃場における草丈、葉数、根粒菌調査などを行い、検査結果として、標準施肥区が平均的に安定して良好であることが判明。
さらに、帯広信用金庫主催の「未来づくり応援プロジェクト」に参加。地元のとうふ店「中田食品」さんのご協力のもと、黒千石豆腐作りに挑戦しました。
「豆乳ににがりを入れて固めるタイミングが難しくて、なかなか固まらなかったので苦戦しましたが、濃厚で美味しい黒千石豆腐ができました」と語る生徒さん達です。
▶生徒さんの自己紹介
5人の生徒さんが、各自自己紹介をしました。雑穀、イモ類、豆類、野菜類などの畑作農家の生徒さん達です。皆さん、家の農家のお手伝いをしているとのことで、経営面積、作物種類などしっかり把握していて、色々お話くださいました。
生徒さん各自自己紹介(※ 撮影・公開につきましては許諾をいただいております)
▶ 高田幸男理事長のお話
「今年2月に東京で『地域特産物マイスター』の認定を受けました(特集記事はこちら >>)。
今年73歳になりますが、この歳で素晴らしい称号を頂き、歳を忘れて若返ったつもりで精一杯頑張って、少しでも人の為にお役に立てればと実感しています。
今日は、遠く帯広から来町頂き、ありがとうございます」と高田理事長。
黒千石事業共同組合・高田幸男 理事長
▷人と人の繋がりから生まれくるもの
食物を作ることが一番だと思う。栽培した食物を、いかに付加価値をつけて販売するか、ただ売れればいいのではなく、「喜んでもらってお金頂くこと」が、次にも次にも繋がっていく。これはとても大事なこと。
黒千石大豆の栄養を活かしたまま食べることの出来る「黒千石きな粉」は、安心安全で美味しいので皆さんおかわりする。
人、物、お金も全て人と人との繋がり。人と人との繋がりで「もの」が動く。仲間が大事。黒千石を作ってくれる64人の生産者がいるから、加工して商品が売れる。
物の取引をする時は、けっして喧嘩しながらでは成り立たない。ニコニコしながら、相手の立場を考えながら、進めていかなければ繋がっていかない。
食べものは、白、黒、黄、赤、青と五感で感じ取っていくことが重要。
太陽の光を沢山浴びて、自然の中で育った農産物が一番安全で安心。自然が相手の農産物は、自然の変化によって常にブレが生じる。成分がブレて当たり前のものがほとんど。
黒千石大豆は北海道の野生種・在来種
▷ 黒千石大豆は北海道の野生種・在来種
2004年(平成16年)に、現在の黒千石事業協同組合・村井宣夫 会長(元北海道議会議員)が、岩手県で栽培していた黒千石大豆の種を北海道に持込み栽培をスタート。北竜町と乙部町と滝川町の3町で栽培を開始。
黒千石大豆の実の大きさは大小様々。さらに異物を取り除くために、ベルトコンベアーに流して、生産者のお母さんたちの手作業で分別を行った。あまりの困難な作業が1ヶ月以上続いたため、分別機械の購入に踏み切る。メーカー探し、機械代金の資金繰りに走り回った。
物を買う時は、必ず「費用対効果(かけた費用に対して、どのくらいの効果があるか)」を考えなければいけない。採算ベースでどのくらいの効果があるかを考慮する必要がある。お金をかければいいというものでなくて、全体の効果やバランスを考えていかないと経営が成り立たない。
この時の決断が、男としての踏ん張りどころ!苦しいけど体当たりしていかなければならない!
2006年(平成18年)に、一気に生産量が上昇。しかし、2008年・2009年(平成20年・21年)の収穫前に雪が降り、豆を雪の下にして倒れてしまった。
現在では、拓殖大学北海道短期大学・三分一敬 名誉教授が、早生で倒れない黒千石の品種改良を研究している。
中間業者が倒産してしまった時は、生産者にお金が払えなかった。銀行は信用と対価のないものについては融資してくれない。あづま食品(宇都宮市)が大口買いをしてくださり、運転資金をなんとか確保することができた。
しかし、それまで100戸以上あった農家が22戸まで減少。
だが、「高田とはくされ縁だからしょうがない」といった農家が残ってくれた。対価なしに人間と人間の繋がりで続けることができた。22戸の仲間は、一緒に苦しみを共にし、一緒に耐えてくれた。この時の有り難い仲間がいたからこそ、今の黒千石が存在する。22戸が現在64戸になったが、この仲間たちを最も大切にしていきたいと思っている。
黒千石の豆は、在来の野生種。空知管内では、以前は小家畜(山羊、羊)の餌、軍馬の餌、十勝方面では緑肥として使っていた。1960年〜70年代(昭和40年代)になると、機械化が進み小家畜もいなくなり、肥料も化学肥料的なものがどんどん開発され良い肥料がでてきたので、黒千石の必要が無くなり使われなくなった。
そんな黒千石大豆は、2000年〜2001年(平成12~13年)頃まで眠っていたが、農業研究家の田中淳 氏が森町(北海道)で50粒の種を撒いところ、28粒が発芽。北海道では寒くて実が収穫できないと考えられたので、岩手県へ。しかし、岩手県では栽培がうまくいかず、村井会長が、黒千石は北海道の原種なので北海道で栽培する、と持ち帰る。
2006年〜2007年(平成18年~19年)は、大豆は実績がなければ加算金(作付奨励金)がもらえなかった。当時、黒千石大豆は奨励金の対象にならなかったが単価が高かったので、黒千石の生産者が増え収量も増加していった。
熱く語る高田理事長
▷ 黒千石きな粉の復活
昔、大ばあちゃんの時代、黒千石は田んぼの畦などに、きな粉豆用として僅かに植えられていた。そのきな粉は、大ばあちゃんが石臼で引いてくれたきな粉だった。おにぎりにもきな粉をまぶして食べていた。
その時のきな粉の美味しい味を覚えていたので、是非とも甦らせたいという強い気持ちから加工品にした。
きな粉の製粉機は、すり鉢状の上臼と下臼の間で豆を擦る。摩擦による温度上昇を抑え(18度以上にならないように)製粉する。石臼状のもので粉砕すると角がとれて滑らかになり、口当たりの良い粉になる。1時間に約15kg~20kgが製粉可能。
この製粉機を探すのも大変だった。なんとしても子供の頃食べていたきな粉の味を復活させたくて、こだわり抜いてメーカーを探していてやっとたどりついたのが長野県。長野県と言えば佐久市を思い起こす。日々の暮らしに関わりの深い農村の健康長寿を考えている町。佐久総合病院には、日本農村医学研究所が設けられ、農業者の事故や病気を防止する研究が行われている。健康長寿の町と、便秘や下痢を防ぎ腸を元気にする黒千石きな粉とは、健康繋がりのご縁がある!
黒千石きな粉の製法について語る高田理事長
▷10年継続して参加している「北のめぐみ愛食フェア」
毎年5月~11月まで、道庁赤レンガ前で開催される「北のめぐみ愛食フェア」に10年間参加し、対面販売を行ってきた。色んな人々との会話が良い経験となり、素晴らしい財産となっている。お客様の意見やアイデアがきっかけで、商品開発に繋がっていくこともある。札幌のお母さんたちが、応援団となり黒千石の今を支えてくださっている。
▷ (株)きのとや(札幌市)との出逢い
「黒千石のフロランタン」新発売の記者会見における(株)きのとや・長沼昭夫 社長(現会長)の言葉が忘れられない。
「黒千石という豆を使って、甘くなくて健康にいいお菓子をやっと私は作ることができたので、皆さん食べてください!」
長沼会長のこの言葉は、有り難い感動的なものでした。
黒千石フロランタン
▷株式会社 豆蔵(札幌市・本間照蔵 社長)の黒千石発芽納豆「なんとみごとな黒千石なっとう」
黒千石大豆を発芽させて納豆にした道内初の商品。
黒千石は皮が固くて厚いため、納豆菌が入りづらい。そこで、発芽させるというアイディアが浮かんだ。黒千石大豆を発芽させるには、4~5日かかる。
しかし、発芽した黒千石大豆を今まで通り乾燥して発送したところ、納豆菌が入らず本間照蔵 社長も頭を抱えた。試行錯誤が繰り返される。あるとき、乾燥せずにウェットの状態で送付したところ、黒千石大豆に納豆菌が入っていき、発芽黒千石納豆の完成に至った。
なんとみごとな黒千石なっとう
▷(一財)さっぽろ産業振興財団(札幌市)の助っ人現る
さっぽろ産業振興財団の職員の方から、黒千石発芽納豆について、札幌市の6次産業活性化推進事業の認定申請してみてはというアドバイスを受けた。早速申請したところ採択されロイトン札幌にて発表。
深川市・滝川市・浦臼町・北竜町などの道の駅での販売が決定。
▷ ふるさと納税の返礼品に「黒千石加工品」が使われる
皆さんから「美味しかった」という嬉しいメッセージを戴く。
食べものに対して「美味しかった」という言葉を戴くことが最高に嬉しいこと、素晴らしいこと。
自分たちが作って、食べてもらって、お金を頂いて、お客様がニコニコ笑顔になっているか、怒っているか、自分で感じることが大切。それは生産するものの励みになる。
北竜町ふるさと納税 (「ふるさとチョイス」サイトより引用)
▷ 学校給食に参画する黒千石大豆
現在、北空知地区の学校給食に黒千石大豆が使われることが計画されている。
地域で作ったものを、地元の子供達に食べてもらう。地元の学校給食への参画は、地域の食べものと子供達が繋がる素晴らしいこと。
素晴らしい実例として、三重県の「農業法人せいわの里・まめや」がある。地元の食材を利用した田舎料理を提供するお母さんの食堂で、地域で栽培し収穫したものを学校給食に納めている。
生産者が直接販売することによって、お金をだして美味しく食べてくださるお客様の顔色、感情、喜びなどを直に感じ取ることができる。感じる事によって生産者の喜び、生産意欲や励みに繋がっていく。
熱く情熱的で笑いありの2時間
▷ 人間の身体の素晴らしさ
人間の身体は、食べもので作られている。どこか悪くなったら、細胞が集まってきて、悪い部分を修復しようと全力で働きかける。そんな素晴らしい機能が人間の身体には備わっている。
化膿したり、下痢したり、咳をしたり、熱をだしたりするのは、すべて身体の中の悪いものを出そうとして働く機能。
腸と内臓が元気であれば、自然治癒力で改善されるのが人間の身体の神秘。薬では元気になれない。
大切なのは腸を元気にすること。腸を元気にするには、身体に良い食べものをよく噛んで食べること。
噛むことは、唾液をだすこと。唾液は血液の一部であり、殺菌作用があり、身体にとってとても大切なもの。
食べものに付いている添加物は、できるだけ摂取しないように気をつけたほうが良い。
黒千石発芽納豆には、添加物の入っている「たれ」をつけなかった。
食べものの大切さ、そして自分で作ったものは自分で売る。食べものを作って売る喜びをじっくり味わってください。
人間は五感のバランスを取りながら、楽しく過ごしていく。何でもやればできる。
仲間を作ろうと思えば作れるし、一番大切なことは仲間。ひとりでは何もできない。
そして、美味しく食べることが基本です。
▶ 生徒たちの意見
生徒たち皆さん、高校では体育会系の選手。スケート、野球、サッカー(ゴールキーパー)など週末は大会への出場で忙しく日程調整には手間がかかったとのこと。皆の日程調整がやっととれ、北竜町への訪問が可能となりました。
皆さんからいろいろな意見を聞くことができました。
・黒千石は加工しづらいと思っていたのですが、色々加工できる可能性があるなと思いました。
色々お話を聞いて新しい発見がありました
・将来食べものを作る人として、範囲が広がった気がします。思いが広がった
・自分たちの作った豆腐じゃなく、違うものにも応援してくださるとおっしゃっていただけたので、
それも含めて頑張っていきたいと思います
・黒千石は、あまりまだ有名ではない豆なので、地元の十勝でも作って、加工して自分でもやってみたいな思いました
・黒千石を選んだのは、栄養が高く、健康にいいということが理由です。
最初は、黒千石栽培だけの予定でしたが、豆腐に加工できるのではと思い挑戦してみました。
黒千石の豆腐作りでは、最初なかなか固まりづらかった所が難しかったです
久保将人さん
府川拓郎さん
白木之博さん
星龍也さん
上田太星さん
松本奈緒子先生
▶ 黒千石料理食事会
皆さんで北竜町ならではの黒千石料理をたっぷりと味わって頂きました。
黒千石料理は、サンフラワーパーク北竜温泉のレストラン・風車のメニュー。山森和樹 料理長ならではの黒千石料理です。「黒ちゃんハンバーグ定食」「黒千石ご飯かき揚げうどんセット」「天竜天丼」「ミニ天竜天丼黒千石うどんセット」「黒いカツカレー」「黒い野菜カレー」など黒千石づくしのお料理の数々です。
「いただきま〜す」と1食目
白米は北竜町産ひまわりラス「おぼろづき」
「おい、2食目どれにする?」と真剣な眼差し
自分たちで様々な調査・研究しながら、黒千石大豆を育て、更に加工して豆腐づくりに挑戦した帯広高校の生徒さんたち。
「本日はありがとうございました!」と気持ちのいい挨拶
生徒さんたちは、栽培過程での大変さ、収穫後の加工の難しさを体験し、さらに商品販売に至る苦労など、高田幸男理事長の情熱のこもったお話を伺って、心に感じるものが沢山あったと思います。
高田理事長から締めのご挨拶
黒千石事業共同組合・高田幸男理事長から生徒さん達に黒千石のお土産
「食べものをつくる喜び、美味しく食べる大切さ、人と人との繋がり・仲間の大切さ」をじっくりと語ってくださった高田幸男理事長のお言葉は、生徒さん皆さんの心に響き、人生を歩んでいく上での大切な指針になるのではないかと感じたひとときでした。
サンフラワーパーク北竜温泉の前で祈念撮影
サンフラワーパーク北竜温泉(撮影:2016年3月17日)
▶ 参考資料
帯広農業高校黒千石分会活動レポート「試験区4区画で生育の違いを調査」
▶ 写真(38枚)はこちら >>
◆ 関連ページ
・黒千石大豆・黒千石事業協同組合(北海道 北竜町)
・北海道帯広農業高校
◇ 撮影・編集=寺内昇 取材・文=寺内郁子