宴終えふたたび花の闇となる
久し振りに中学校のクラス会があった。故田中北斗(本名・保)さんの添削で特選句を頂いた。正直嬉しかった。俳句を始めた頃の一句。俳句で“花”とは桜のこと。
ひとりじめパスタの味も春めいて
十数年前のこと。とあるレストランに行き、カルボナーラを注文した。ひとりじめしたくなるほど美味であった。レストランの外はもう春めいていた。
まちぶせやユーミンの声啓蟄に
ユーミンとは松任谷山実の愛称で、石川ひとみがこの曲を歌い、涙の紅白初出場となった。啓蟄とは春になって虫達が穴から出てくることをいう。それに“まちぶせ”を取り合わせた一句である。
肩組んで絆はるかに鳥帰る
クラス会での句であるが、宴会が終わり、これからも同級生として、三々五々我々も、絆はるかに、鳥帰るように一人、二人と去っていったのである。別れは非常に淋しいが・・・。
老木の堪える姿で春に立つ
立春のことであるが、北国はまだ雪が残っている。老木も雪の重さに堪えながら立っている姿は、老木であろうと力強いことである。人間も同様でなかろうか。
太陽が居間に転がり長閑かな
“長閑(のどか)”とは春の季語であるが、度々晴天に恵まれる日がある。その頃のことであるが、暖かく大きな太陽が居間に転がってくるようで、長閑そのものである。
点眼をしてゆっくりと桜散る
三十歳になって急激に視力が洛ちた。眼科に行くと、強度の乱視と言われ、眼鏡を掛けざることとなった。眼精疲労もあったが、目薬を差すと桜が見事に散る様が美しかった。
枕経聴きて日永のたしかかな
平成十五年二月七日、祖母が逝去した。突然の訃報に住職も驚いた。用事が重なっていたらしい。午後三時に息を引きとり、枕経は四時頃であった。日が長くなり出し、まさに日永を感じた。数え百三歳、当時、北竜町の最高齢者として新聞にも掲載された。
印影の明暗ありて二月冬
行政関係に携わったことはないが、二月、三月ともなると事務仕事も大切な事である。明暗に分かれる時期でもあると思う。ご苦労様といったところか。
義経の甲冑光る風となる
“風光る”が春の季語。数年前の大河ドラマで滝沢秀明が演じた。春の鋭い風の中、彼は正々堂々と、甲冑がまるで光り出したかの様な演技だった。正に若者らしい清々しい感じがした。
安住の地と決め拳春寒し
人生、紆余曲折は誰しもが経験することだろう。僕もこの地、北竜町に安住しようと心に決めた。まだ春は浅い時期で、時々寒い日を送る。両手の指をグッと握りしめた。
清貧を糧に三寒四温かな
三日寒さが続けば四日暖かい日を繰り返し、次第に春が本格的になる頃だが、貧しくても、ピンチがあっても清貧を心にひきしめ、それを糧にして前に進みたいものだ。
浜風に耐える和菓子屋婆の春
浜頓別の吟行句会の帰途、家族に土産品を買い求めようと老舗和菓子屋に寄る。出て来だのは小柄なイイお婆ちゃんだった。この地は浜風が強いようだ。逞しく浜風の強さに耐えながらも経営しているらしい。
北限の村に師の影鳥帰る
これも浜頓別吟行句の一句。故北光星先生の第七句碑のあるマチ。渡り大工だった師がこの地を訪れ、その影が今も当地に宿っているかのようだ。源鬼彦主宰の選を頂いた。
◆ 北竜町民「杉本隆文(すぎもと たかふみ)さん」
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