▶ 1.植物油に含まれる脂肪酸
エネルギー源としてだけでなく、植物油は人間の健康を維持するうえで重要なはたらきをしています。そのはたらきは植物油に含まれる成分によるもので、なかでも脂肪酸は、植物油に最も多く含まれる成分です。人体の健康増進に重要なはたらきをしています。
オレイン酸やリノール酸という言葉をご存じの方もいらっしゃると思いますが、これらは植物油の脂肪酸の名前です。一般的に食用に利用されている植物油に含まれる脂肪酸の概要を表5に整理しました。
資料:公益財団法人 日本油脂検査協会
上記の表からも分かるように、ひまわり油(ハイオレイック種)は、ほかの油に比して突出してオレイン酸が豊富であることが分かります。ひまわり油再生プロジェクトで今年栽培するのはまさにこの「ハイオレイック種ひまわり」です。
ここからはちょっとマニアックな話をさせて頂きます。
一般的に脂肪酸はその構造によって、2つに分類されます。上記の表にある「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」です。
さらに「不飽和脂肪酸」はその構造から、「一価不飽和脂肪酸」と「多価不飽和脂肪酸」(二価以上の不飽和脂肪酸を有す)に分類され、「多価不飽和脂肪酸」にはその栄養的特性から「ω-3」「ω-6」「ω―9」(ωは「オメガ」と読みます)や、耳にされた方もいらっしゃるかと思いますが、「α(アルファ)-リノレン酸」「γ(ガンマ)-リノレン酸」、そして「EPA」や「DHA」という身体にとって重要な脂肪酸もあります。
また、最近新聞やTVで取り上げられた「トランス脂肪酸」(天然物にはあまり存在しない脂肪酸で、特殊な条件下で生じる。心疾患の原因になると言われ、米国や欧州では摂取制限や含有量の表示義務がある)もこの「不飽和脂肪酸」の一種になります。
以下に簡単に整理してみましょう。
(1)油脂の構造
油脂(トリグリセリド)とは、グリセリンに脂肪酸が3つ結合したもの。この脂肪酸の大きさや種類によって 各油脂の機能や物性が異なります。
油脂の構造
(2)脂肪酸の種類
① 飽和脂肪酸:二重結合が無い脂肪酸で直線的な構造
動物油脂中に多く存在し、取り過ぎるとコレステロールの上昇、動脈硬化の促進が見られる。量の多少はあるがすべての植物油に含まれる。(例)パルミチン酸、ステアリン酸など
② 一価不飽和脂肪酸:二重結合が1つある脂肪酸
コレステロールに対してLDLを増加させず、HDLを減少させないといわれている。酸化に対する安定性がり、体内における過酸化物の発生を抑える。オリーブ油が健康に良いとする根拠の一つが一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸を多く含んでいることです。
地中海地域の人々が、食物をたっぷり食べ、ワインを多飲するにもかかわらず、冠状動脈性心疾患の発症が少なく健康が維持されているのは、オリーブ油の効果であり、多く含まれているオレイン酸の効果であるという説です。
そして、オレイン酸のコレステロール挙動に関して、LDLだけを下げ、HDLは下げないとの選択制のあることが示されたことにより、オレイン酸の健康に対する有効性が強く主張され、オリーブ油は健康に良い効果を持つとの説が確立された感があります。(例)オレイン酸、パルミトレイン酸(殆どは魚油に含まれる)
※ 実は、ハイオレイック種のひまわり油はこのオリーブ油よりも多くのオレイン酸を含んでいます!
③ 多価不飽和脂肪酸:二重結合が2つ以上ある脂肪酸
中でも特に人間の体内で合成することができず、食事によって摂取しなければならない脂肪酸(リノール酸、α-リノレン酸などの多価不飽和脂肪酸)を必須脂肪酸と称しています。
EPA(イコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は体内においてα-リノレン酸の代謝により合成されることが分かっていますが、十分な量の合成が行われることが難しいため、これらも食事から摂取することが好ましいとされてます。
・二重結合が2つの脂肪酸:リノール酸
・二重結合が3つの脂肪酸:α、γ-リノレン酸
・3つ以上:EPA(二重結合が5つ)、DHA(二重結合が6つ)
▶ 2.植物油に含まれる微量成分
植物油は、脂肪酸のほか人体を健康的に維持していくために有効な微量成分を含んでいます。それらを表8に示しました。それらは、ほとんどの植物油に豊富に含むものがある一方、特定の油種に特有に含むものもあります。
植物油に含まれる微量成分
植物油は、それ自体がビタミンEの供給源ですが、脂溶性ビタミン(ビタミンA、E、D、K)を体内に吸収するため不可欠の食品です。人参、ピーマンなど緑黄色野菜に多く含まれるカロテン(体内代謝でビタミンAに転化)は、植物油とともに食べることで体内に吸収されることが分かっています。植物油で調理することは、おいしさを増すだけではなく、栄養的にも理にかなったことなのです。
(1) 植物ステロール
ほとんどの植物油に豊富に含まれますが、こめ油、菜種油、とうもろこし油などに特に多く含まれます。植物ステロールは、小腸でコレステロールの吸収を抑制する作用があり、血中コレステロールを低下させる効果があります。
(2)トコフェロール(ビタミンE)
トコフェロールはビタミンEとして知られ、日本人が摂取するビタミンEの30%程度が植物油から摂取されているとされています。トコフェロールには4種の異性体があり、特にα-トコフェロールは生体内で高い抗酸化作用を有し、老化防止などの効果があります。
γ-、δ-トコフェロールは生体外での抗酸化能が高く、植物油が酸化防止剤を添加していないのは、これらのトコフェロールの作用があることによります。
(3) トコトリエノール
トコフェロールの同族体で、こめ油とパーム油に特有の物質で、トコフェロールと同様に抗酸化作用を有します。
(4) リグナン類
リグナン類はほとんどの植物油に微量に含まれますが、ごま油には特徴的なリグナン類が高濃度に含まれます。抗酸化機能があり、その一つであるセサミンは肝臓でのアルコール分解作用があることからサプリメントとしても利用されています。
(5) オリザノール
こめ油に特有の物質で、ビタミンEと同様の効果があります。また、γ-オリザノールには抗うつ作用があり、医薬品として用いられています。
(6) ポリフェノール
オリーブ油に微量に含まれます。抗酸化機能などが期待されますが、明確な効果を確認できる量を含むものではなく、この効果だけを過大に期待して多くのオリーブ油を摂取すると、カロリー過多などの問題を引き起こす懸念があります。
(7) β-カロテン
未精製の植物油に含まれる抗酸化成分ですが、精製工程で除去されるため普通の製品には含まれません。パーム油については、特別の精製を行い製品中にβ-カロテンを残存させた商品もあります。
▶ 3.バランスの取れた食生活
植物油は食品であり薬剤ではありませんので、脂肪酸や微量成分の機能や効果に即効的な効果を期待することは禁物です。油脂に限らず食品とは、長期にバランスよく摂取することでそれぞれの成分の効果が出現し、人体の機能を正常な状態に保つものであると考えるべきでしょう。
また、微量成分の一部は過剰摂取による影響が不明のものもありますので、注意が必要です。
バランスの良い食生活が適正な脂質の摂取に結びつくのですが、どうすればバランスが良くなるのかを判定することは非常に難しいことです。 家庭食、外食、加工食品等の利用を問わず、特定の食べ物に偏らないこと、脂質の多い食べ物はおいしいので食べ過ぎに注意を払うこと(特に見えない油には注意が必要ですよ)、腹八分目の教訓を守ること、1週間単位ぐらいで全体のバランスを考えることなど、これまで言われていたことを実行することが大切なのだと思います。
植物油の脂肪酸バランスについては、ご家庭で基本となる油(サラダ油、キャノーラ油など)を決め、オリーブ油、ごま油、こめ油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油などお好みの油を2~3種類備えていただき、これらを適当に組み合わせてご使用いただくと、脂肪酸摂取のバランスも良くなります。
植物油は、料理をおいしく仕上げる調理補助剤的な食品ですから、先ず、おいしく召し上がっていただくことが大事です。
※ 美味しく食べてお元気に!(これ、日清オイリオグループのギフトのキャッチフレーズ)
次回は(No.04・8月予定)、「植物油の種類」についてのお話しです。
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