2023年1月11日(水)
北竜町碧水ご出身の白佐俊憲 様より、童話「北竜メロン『龍の鈴 誕生物語』」をご提供いただきました。公開の許可をいただきましたので、ご紹介させていただきます。
北竜メロン『龍の鈴 誕生物語』作:渡辺碧水
渡辺碧水(わたなべ へきすい)
昭和十二年十月生まれ。北海道雨竜郡北竜村出身。開拓時代の地名と現代の地名とにちなんだペンネームを使用。傘寿を機に、身辺雑 記・自分史・故郷関係を素材にエッセイ等を執筆投稿。無職。札幌市在住。みなさん、『龍の鈴」というメロンをご存知ですか。日持ちがよく、甘さが抜群な、とっても高級なメロンです。北海道の生産地・北竜という町(私の故郷)の特産品です。その誕生物語をお話しします。
「カラン、コロン」
鈴の音が神社の境内にひびきました。
みなさん知っていますよね。神社の拝殿正面に、布で編んだなわと一緒につり下がっていて、お参りする時、なわを振り動かすと鳴る、あの大きな鈴のこと。
みなさんの近所にある神社の鈴は「ガラ、ガラ」とか、「ジャラ、ジャラ」と鳴ると思いますが、この神社の鈴は「カラン、コロン」と鳴るのです。
もともと、鈴の音は清らかな澄んだもので、心や体を清めて災いを除く力があると人々に信じられてきました。
この町にある真龍神社(しんりゅうじんじゃ)の鈴は、『龍の鈴』と呼ばれています。スーッと心にしみ込むような清らかな特別な音をひびかせ、地域の人々に長い間、親しまれてきました。
それは五十数年も前の秋でした。いつものように小学生たちが、神社の境内でかくれんぼをして遊んでいました。鬼役の山田秀樹が、
「はかせ、見つけたぞ!」
と叫ぶと、物知りでみんなに「はかせ」と呼ばれている野田弘が気まずそうに出てきました。秀樹は捕まえたことを知らせるため神社の鈴を鳴らしました。
すると、いつもはだれが振っても「カラン、コロン」と鳴っていたのですが、
「タラン、メロン」
と鳴ったのです。自分の耳を疑い、もう一度振ってみんなに聞いてもらっても、やはり、
「タラン、メロン」
と鳴ったのです。みんなは、不思議に思い、かくれんぼをやめて、考え込みました。
すると、弘が思いついた名案を述べました。
「タランは足りない。メロンは果物のメロンんじゃない? メロンが不足しているっていう意味。どう?」
「それは、どういうことだろう?」
「秀樹に鳴ったのだから、何か心当たりはないかい?」
するとすぐに秀樹が、ニャっと笑って小さく首を縦に二回振りました。
「ある、ある。大ありだ。これは神様からのお告げだよ。わが父に進言だ!」
拝殿と『龍の鈴』に手を合わせ、「これは我が家の将来に関することだけどね」と言い、少し得意げに、秀樹は、昨夜のお父さんとお母さんの話し合いの様子をみんなに説明して聞かせました。
秀樹の父・山田秀雄さんは、「これからの農業は稲作だけでは成り立たなくなり、畑作も加えた農業へ変わらなければならない。そして、重要なのは畑で何を栽培するか。 メロンが最有力だ」と、力説したそうです。
そして、秀樹は自分の将来を思いながら、お父さんから聞かされた言葉「生活の潤い」をつぶやいて、空を見上げました。みんなは感心して聞いていました。
「メロンはすごくおいしいよな!」
と言って、弘も大きくうなずきました。
秀樹が走り出しました。走りに走りました。お父さんの働く水田へ。
そして、「とにかく来て!」とお父さんを連れて、神社に戻ってきました。
市街地の外れにある神社には、毎日のように仕事の行き帰りに人々が立ち寄り、『龍の鈴』を鳴らしました。そして、その音によって人々は心の疲れを癒されてきました。
二人が神社に到着すると、よそのおじさんが来ていて、鈴のなわを振っていました。
「カラン、コロン」
鈴はいつものように鳴っていました。
「お父さん、ぼくが振るから、聞いてよ」
と秀樹が先に鳴らしました。
「タラン、メロン」
確かに違いました。不思議に思ったお父さんは、自分で鈴のなわを振ってみました。
「タラン、メロン」
念のため、お父さんはまた鳴らしました。
「タラン、メロン」
「お父さん、いつもと違うのがわかる?」
「足らん、メロン。メロンが不足しているから、メロンを作れと、聞こえるね」
「そうでしょう。昨日の夜、メロン栽培の話を聞いていたから、すぐに知らせたの」
お父さんは、この音を真龍神社がまつる竜からの強い励ましと受けとめ、メロンの栽培を決心しました。
その後、秀樹もお父さんに協力し、青肉メロンなら最高級とほめられる優良品を作り、多くの人を喜ばせました。町史は、お父さんの名を「高級メロン創作者」と記して伝えて います。
今、神社の鈴はどんな音を響かせているかって? 実は、誰が鳴らしても、低い音で「イラン、コロナ」としか鳴らないんですよ!
講評
神社の鈴が「タラン、メロン」と鳴る。そこで秀樹は父親にメロンを生産するように進言。かくて秀樹の父親は優良なメロンを栽培し、人々に喜ばれる。その神社の鈴は今は「イラン、コロナ」と鳴るというオチが面白い。
千思 公募ガイド童話作品集
2020年12月20日第1刷発行
公募ガイド読者65名が作品を持ち寄り、一つの作品集となりました。童話に込めた千もの思い、ぜひ鑑賞ください。(公募ガイド編集部)
- 著者 公募ガイド読者65名
- 発行人 浅田邦裕
- 編集人 澤田香織 黑田 清
- 発行 株式会社公募ガイド社
〒105-0011 東京都港区芝公園1-8-21-5F
電話 03-5405-2170
https://www.koubo.co.jp - 協力 岡田千重
- 装丁 安田ナオミ
©公募ガイド社 2020 非売品
本書は、公募ガイドの読者65名の童話をまとめた作品集です。
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