2025年12月2日(火)
いのちの誕生を祝う。世界に1冊だけのオリジナル絵本『きみのえほん』完成と、作家・ながおたくま さんが北竜町に刻んだ一日
窓の外には、北国の冬の訪れを告げる白い雪。しかし、北竜町役場の応接室は、まるで真夏のような熱気と、春の日差しのような温かさに包まれていました。
令和7年11月27日(木)。北竜町に、新しい「宝物」が生まれました。それは、町に生まれてくる赤ちゃん一人ひとりに贈られる、世界に一冊だけのオリジナル絵本『きみのえほん』です。
今年、2025年1月に、佐々木町長の「生まれてくる赤ちゃんを町を挙げて祝福する企画を考えて欲しい」との掛け声から始まった『きみのえほん』プロジェクト。メンバーは、メールで情報を共有しながらアイディアを出し合いました。
そして、ネットで検索し続け、出会った方が絵本作家・ながおたくま(長尾琢磨)さん。依頼が決定してから、長尾さん、メンバーで第5版まで推敲を重ね、初版第1刷が11月に完成しました。
この日、制作を手掛けた絵本作家・ながおたくま(長尾琢磨)さんが来町。佐々木康宏 町長との対談、そして感謝の製本式が行われました。お互いの「本気」がぶつかり合い、共鳴し合ったその対話の模様をお伝えします。
『きみのえほん』初版第1刷・全ページ
絵本作家・ながおたくま(長尾琢磨)さんより、『きみのえほん(初版)』全ページのネット公開の許諾をいただきましたので紹介いたします。
生まれてくる赤ちゃんのオリジナル絵本には、「きみ」に赤ちゃんの名前が挿入され、ご両親の似顔絵と赤ちゃんの命名の想いが綴られます。

【対談】「心をつくる」というプレッシャーと希望
部屋に入った瞬間から始まった、佐々木町長と長尾さんの対話。それは単なる業務報告ではなく、これからの時代を生きる子供たちへの、大人たちの真剣な「作戦会議」のようでした。

長尾さん:出版業界の中でも、雑誌の売り上げが下がっている中で、絵本はずっと安定しているんです。この安定も徐々に下がりつつあるんですが、やっぱりスマホやゲームがライバルになってきています。それでも、絵本を求める親御さんは増えているんですよね。
佐々木町長:この絵本は「心をつくる」ことだと考えています。私はものすごいプレッシャーを感じているんですよ。子供に対する町の政策もしっかりしなきゃならない。子供たちが誕生するような環境の整備をしてあげなきゃならないっていう点の整備が不可欠です。環境づくりって本当に大切ですよね。
長尾さん:今まで依頼を受けて作った本だと、大体30冊後半ぐらいになります。自治体から、企業から、個人から色々。やっぱり自分で本を書くと、自分でテーマを決めて、ルールを決めちゃうんですよね。「この表現はしないよ」とか。でも、依頼を受ける場合は、「ここを書かなきゃいけないから、なんとかしてみよう」っていう気力が湧いてくるんです。刺激が全然違うんですね。「このテーマ書くんですか?」みたいな(笑)。難しいなとか思うんですが、そこを描くのが楽しいんですよね。
町長の「心をつくる」という言葉の重み。そして、依頼されたテーマだからこそ生まれる「新しい表現」を楽しむ長尾さんのクリエイター魂。二人の言葉が重なり合い、北竜町だけの物語が紡がれていきました。
【製本式】「きみ」の名前が入る、世界で一つの魔法
続いて行われた「感謝の製本式」。 長尾さんから手渡されたのは、まだ真新しいインクの匂いがしそうな『きみのえほん』。 そこには、北竜町ならではの「愛」が仕掛けられていました。
司会進行:こどもくらし応援課・続木敬子 課長

絵本作家・ながおたくま(長尾琢磨)さんプロフィール(公式ホームページより抜粋)
- 1978年静岡に生まれる。名古屋在住。名古屋芸術大学出身
- 2012年に「第28回ニッサン童話と絵本のグランプリ」にて絵本大賞を受賞
- 同年12月、受賞作である『ぴっちとりた まよなかのサーカス』(BL出版)を出版
- その後クラシック音楽と絵本が共演する「音楽と絵本のコンサート」を各地で行う
- 『パパパパパパーン』『ぼくはもう怪獣じゃないぞ!』など出版
- 他にも愛知県警の公式絵本『あなただから』『すてきなあなたへ』『いつかきっと』
- 岐阜県子供消費者教育絵本『みみんちゃんのおかいもの』
- 犬山市の災害を描いた『いるかいけがきれた』
- 名古屋市振興事業団の紙芝居「ほっかりほっかりいただきます」などを制作
- 他にも難病を伝えるための絵本『たっくん』や、保護犬の生涯を描いた『ね、レイン』など多数制作
- 2020年から「YOUR STORIES」を立ち上げ、個人や企業、自治体のオリジナル絵本を制作。歴史や難病、結婚や幼稚園、出産育児、死別、子どもマナーなどの様々なテーマを描き、今までにない新しい絵本のスタイルを確立している
- 絵本教室「ユトレヒト」を立ち上げ、絵本を作りたい人へ絵本のノウハウを伝えたり、NHK 名古屋教室、津島カルチャーセンターでも絵本講師を務めていらっしゃいます
大切な思い出を閉じ込めた、世界でたった一つの絵本。人生の中で特別な瞬間、大切な家族との絆、忘れられない思い出など。あなた…
名古屋を中心に活動する絵本作家の公式サイト。絵本出版はもちろん、トートバッグを作るワークショップやおはなし会、個展や展示…

佐々木康宏 町長:挨拶

「本日は、北竜町の絵本『きみのえほん』の完成をお祝いする製本式にお集まりいただき、ありがとうございます。この絵本は、子どもたちに渡して初めて『発表』となり完結するというスケジュールで進めてまいります。
【絵本完成への想いと「子育ち」へのビジョン】
現在、国では『地方創生2.5』という新しい地方のあり方を考える政策が始まっており、北竜町でも7本の柱の一つとして『子どもたちへの応援』を掲げています。これまでの『子育て(親が育てる)』という視点から、『子育ち(子どもたちが自ら育つ)』というビジョンへと、一つずつ変わりつつあります。
【子どもたちへの贈り物としての絵本】
私の心を奪うほどの『本当の宝物』である子どもたちに対して、私たち大人はどのようなプレゼントができるだろうか。そう考えたとき、町の想いと作家さんの思いが一つになった『絵本』という形を選びました。『北竜町らしさ』を表現していただける方を探していたところ、長尾琢磨さんという、思いがぴったりの方に出会うことができました。
本来であれば、ひまわりが咲いている時期に来ていただき、現地でお話ししながら構成を進めるべきでしたが、スケジュールの都合で叶わなかったことを申し訳なく思っています。しかし、様々な困難を乗り越え、こうして完成の日を迎えられたことを本当に嬉しく思います。
【英語表記に込めた「教育ビジョン」】
制作にあたり、私から一つだけお願いしたことがあります。それは『英語の表記を入れてほしい』ということでした。 これは、北竜町の田中佳樹 教育長が持っている教育ビジョンに基づいています。現在、文科省に特例申請をしている『北竜学科』には、以下の3つの柱があります。
- 北竜科 :北竜の伝統文化、水稲の文化、暮らしの文化を学ぶ
- チャレンジ科:小さい頃から何にでも挑戦する心を育む
- 英会話科 :世界とつながる言葉を学ぶ
この絵本が子どもたちの手に渡って、喜ぶ子どもたちに笑顔を想像しながら、お渡しできる日を迎えたいと思っています。
現在47歳である長尾さんが、長〜い期間、子どもたちにお付き合いできることを願っております。よろしく願いいたします。
心ある、温かい絵本を作っていただき本当にありがとうございます。長いお付き合いになると思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
この絵本が、子どもたちにとっての最初の教科書となり、北竜町の文化や世界への広がりを感じてもらえるものになればと願っております」。

絵本作家・ながおたくま(長尾琢磨)さんご挨拶

【『きみのえほん』に込めた願い】
「絵本というのは、通常は『皆さんのもの(広く販売されるもの)』ですが、今回は『自分たちの家族や友達、この町のためだけの絵本』、つまり一般には売っていない、特別な絵本を描きたいと思っていました。
この絵本を、北竜町に生まれた子どもたちへ届けていきたいという気持ちが強くあります。この町は子どもたちにとって未来の存在でもありますし、様々なものを託していきたいと思っています。
生まれた瞬間から、こうして地域に深く注目され、歓迎されるということ。それこそが、あるべき姿ではないかと感じています。
人も町も、その子の誕生を祝っていくというのはとても素敵だな感じています。子どもたちがそうした温かい愛情に包まれて生まれてきて、この絵本が、その物語の一部になれれば幸いです。
今回の絵本制作においても、描きながらニコニコしてしま場面があったので、とてもいいなと思います」。
最後に、長尾さんは北竜町の子供たちの未来を想い、こう締めくくりました。
「この絵本を見た子どもたちが『私の絵本だよ』と言える絵本となり、子どもたちの心を後押しできるような絵本になればと思います。
いろんなところで、相談にのったり、肩を持ったり、そばで寄り添ってあげれるような絵本であることを願っています。こういう機会を頂けて、本当にありがとうございます」と長尾さんのお言葉でした。
絵本制作概要説明:まち未来戦略課・川本弥生 課長

ようこそ、北竜町へ!町の”たからもの”となる赤ちゃんに贈る
オリジナル絵本『きみのえほん』が完成しました北竜町(町長:佐々木 康宏)は、このたび、町で生まれる全ての赤ちゃんに贈るオリジナル絵本『きみのえほん』を制作・完成いたしました。これは、町の地方創生2.0で目指す「子育ち」を支えるまちの重要施策の一貫として行うものです。このプロジェクトは、佐々木町長の「町の宝物である赤ちゃんに、北竜町ならではの贈り物をしたい」という想いから発足し、北竜町独自の「心の原風景」となる物語が企画されました。
完成した絵本『きみのえほん』は、ハードカバー全28ページの本格的な仕上がりで、イラストは温かいタッチで活躍する、ながおたくま さんが担当しました。
物語には、日本一のひまわり畑の公式キャラクター「ひまわり咲ちゃん」や、町の伝説にちなんだ「竜くん」が登場。赤ちゃん(きみ)が竜の背に乗って空を飛び、北竜町の美しい自然や温かい町の人々に出会う、心温まるストーリーが描かれています。
さらに、最終ページにはご両親からの特別なメッセージと、佐々木町長からの「Find Your… あなたの絵本を描いてください」という、赤ちゃんの未来への希望を込めた直筆メッセージも収められ、世界に一冊だけの特別な絵本となります。
この『きみのえほん』は、来年2026年2月に、今年度誕生した赤ちゃんのご家族へ、佐々木町長から直接手渡される「第一号贈呈式」を開催する予定です。贈呈式の様子も、改めて皆様にご紹介します。ご期待ください。

長尾琢磨さん直筆サイン


記念撮影


北海道新聞・北空知新聞 記者との質疑応答
記者:「家族や町が出てくると絵本がもっと面白くなる」「書きながらニヤニヤしてしまう」というオーダー絵本について考えをお聞かせください。
長尾さん:本屋さんで手にとる一般的な絵本は、自分ではない誰かが主人公ですが、オーダー絵本は、自分が主人公で、家族が登場することもできます。私の本という喜びが溢れる本になります。読んだ人が120%嬉しいと感じます。個人・企業など依頼を受けて書いています。子どもたちのために描いていけることは楽しいので、書きながらニヤニヤしています。
記者:今回の絵本を作る上で一番大事にしたことは何ですか?
長尾さん:絵本は子どもにとって身近なものですが、小さくてまだ手に取って読めなかったりします。絵を眺めただけでも楽しいと感じる絵本であったり、意味がわかるにつれて、この本の中にあるように、町や人、自然や草木・動物の全てが、この町で誕生した命を祝福してくれるという、「安心感」を大切に描いています。
例えば、家族愛の本であれば「家族ってすごいな、大好きだな」って思って、子供が家族を好きになると、家族を誇りに思い、その子が強く生きていけたりします。そうした良い方向に向かっていくんじゃないかなとは思っています。
最後に、長尾さんは「40年、大丈夫かな?(笑)」と冗談を交えつつも、「ずっと、ずーっとね。図書館に残しておいて、大きくなりましたよって見てもらいたい」と、未来への願いを語ってくださいました。

雪の北竜、子供たちの笑顔との出会い
式典の後、長尾さんは町内視察へ。サンフラワーパーク北竜温泉での昼食や、雪化粧をした「眺望の丘」からの絶景。そして、やわら保育園と真竜小学校への訪問。
眺望の丘

やわら保育園(設計:隈研吾建築都市設計事務所)

12月25日(水)、「北竜町立やわら保育園」建設完了(12月20日)後、佐野豊町長をはじめとする関係者立ち合いのもと、建…
真竜小学校
教室に入ると、子供たちの好奇心いっぱいの瞳が長尾さんを迎えます。「わぁ!」と歓声が上がり、手作りのおもちゃやけん玉で一緒に遊ぶ長尾さんの姿は、まるで子供に戻ったかのよう。





2025年11月28日(金)…
佐々木町長が語った「環境づくり」。長尾さんが語った「家族を好きになること」。
その答え合わせをするかのように、子供たちの無邪気な笑顔が、教室いっぱいに咲き誇っていました。
一冊の絵本から始まる、北竜町の新しい物語。それは、行政の政策という枠を超え、町民みんなで「いのち」を祝福し、育てていくという、愛と覚悟の証です。
『きみのえほん』を開くたび、北竜町の子供たちが、自分がどれほど愛されているかを知り、誇りを持って歩んでいけるよう、子どもたち一人一人の魂のアンカーになり得る、北竜町が贈る世界に一つの絵本「きみのえほん」に、限りない愛と感謝と祈りを込めて。。。


