2012年6月29日(金)
6月26日(火)晴れ渡る青空の中、(有)田からもの代表・佐藤稔さんの有機栽培米の田んぼ(圃場)で、拓殖大学北海道短期大学 環境農学科の授業の一貫として「水稲の病害虫総合管理実習」が実施されました。
参加されたのは、およそ30名の学生さん達。マイクロバスで、同日午前9時50分に恵岱別営農集団ライスセンターに到着です。
佐藤稔さんが、水稲の有機栽培を開始したのは、今から21年前の1991年(平成3年)。
現在、有機栽培米の田んぼは0.64ha. 20年以上もの間、無農薬、無化学肥料を続けている田んぼです。
2000年(平成12年)には、有機農産物JAS規格の認証を受け、(有)田からもの では、有機栽培米と特別栽培米の作付けを行なっています。
八谷先生のご説明の後、佐藤稔さん、そして現在(有)田からもので農業をされている、拓殖大学北海道短期大学卒業生の竹谷全さんと、森谷慶一さんのお話がありました。
恵岱別営農集団ライスセンターでブリーフィング
▶ 佐藤稔さんのお話
今年は雪が多くて、雪解けが心配されましたが、思ったより早く雪がとけました。また、夜の気温が低くならなかったため、通常35日間の育苗が30日と短縮できました。
通常播種してから、霜が降りますが、今年は霜が降りなかったこと、また夜温が10度を維持していたこと等が要因となって、育苗がとても順調でした。こんな良い苗は、30年に一度くらいのことです。
自然農法の圃場の田植えは、他の圃場より遅く6月2日に行いました。田植え後の藻の発生が多く、除草機で取り除き、5日間程圃場の水抜きをしました。
農業の規模としては、全体で39町2反(39ha+20a)、その内26町が田んぼ、12町が蕎麦、7反がもち米となっています(単位参照:wiki)。
現在、農業者個別所得補償制度によって、10aにつき、そば(畑作物)に2万円、米に1万5千円が付加されます。去年から米の価格が持ち直してきたこともあり、昨年は近年にない所得額となりました。
また、新規就農者には、就農後5年間は保証金が付加されます。こうした様々な制度によって、就農に取り組みやすくなっています。
10年たったら、農家戸数は、半分になっていると思います。これからの農業は、法人として経営していくのか、構成員として就農していくのか、いずれにしても、あらゆる智恵をだして進んで行かなければならないと考えています。
▶ 2年前に拓殖大学北海道短期大学を卒業した森谷慶一さん(21歳)のお話
就農して働きはじめると、基本的に休みがなくなるので、在学中は、思う存分遊んでおいたほうが良いと思います。冬期もアルバイトをして働いています。
今年2年目です。1年やって仕事内容はわかってきたのですが、2年目は、理解した上での難しさが加わってきています。10年はやらないと納得のいくものにならないのではないかと感じています。
▶ 4年前に拓殖大学短大を卒業した竹谷全さん(36歳)のお話
農業をやってて一番大事だと感じることは「コミュニケーション」。大学時代に、皆でひとつのものを創りあげていくことを沢山経験していくと良い思います。
そうした場におけるコミュニケーションを養っていくことが、これから働いていく上で、一番大切なこととなっていくのではないかと感じています。
左(左より):八谷先生、森谷さん、佐藤 代表、竹谷さん 右:佐藤稔 代表、森谷さん
実習内容は、八谷先生のご指導のもと、水稲の主要病害虫の種類と数を調査するものです。
▶ 八谷和彦(はちや かずひこ)教授
八谷和彦 教授(58歳)は、北海道大学農学部農業生物学科昆虫学講座を卒業され、北海道大学・農学博士の学位をお持ちです。
大学卒業後、北海道立中央農業試験場の研究職員、北海道立上川農業試験場の専門技術員等を経て、2006年には、北海道十勝農業試験場生物研究部の部長に就任。その後退職され、2008年拓殖大学北海道短期大学環境農学科の教授に就任されました。
2011年2月には、北竜ひまわりライス生産組合 水稲研究会講師をなさっていらっしゃいます。
八谷先生のご趣味は登山。趣味の領域を超えて、北海道山岳ガイド(夏山ガイド)の資格をお持ちです。22歳のときから登山を始められ、30年以上毎月山に通い続けていらっしゃるそうです。
2007年に自費出版された「ガイドブックにない北海道の山々~私の全山登頂情報~」(参照ページ)には、八谷先生が登頂された道内の標高1000m以上の全428山が掲載されています(制作協力:北海道新聞社)。
八谷先生のわかりやすい丁寧な説明を聞きながら、田んぼの中での調査へと進みます。
早速、学生さん達は5人づつ6班に分かれ、長靴に履き替えてスタンバイ。
各班毎に田んぼに入り、水稲5株について調査を行ないます。
まずは、1株における葉の数(10枚~20枚)を数え、被害を受けた葉の枚数を調査。
次に、6月下旬に発生する主な病害虫「イネドロオイヌシ」「イネミズゾウムシ」「イネアオムシ」について、「成虫数」「卵塊数」「幼虫数」「食害葉数」等を調査します。
左:八谷和彦 先生 右:有機栽培圃場でのブリーフィング
◆ イネドロオイムシ
<形態>
・卵は黄褐色、長径0.8mmで数粒ずつまとめて葉面に産みつけられる
・幼虫は洋なし型で成熟すると体長約5mm。いつも自分の糞を背面に背負っているのでこの名前がつけられている。幼虫が排泄した糞を背中に押し上げているのは,直射日光を避けて湿度を保つとともに,天敵の攻撃を避けるためといわれている
・成虫は体長約4mm~5mm、胸部は細くて黄褐色で全体に輝きのある青藍色の甲虫である。
★ 卵に関しては、卵の塊の数を調べます
<被害>
・成虫,幼虫ともイネの葉を食害するが、成虫よりも幼虫の被害の方がはるかに大きい
・幼虫は葉をところどころ削るように食害して、幅広い白いかすり状の傷を付ける。カッターで切ったような細い線を成す
・成虫は縦に白線状の長い傷を付け,イネミズゾウムシ成虫の被害とよく似ているが,食害痕の幅はイネドロオイムシの方が狭い
◆ イネミズゾウムシ
<形態>
・成虫は、体長3mmで灰白色、背面に黒色の斑紋があり触角は赤褐色のこん棒状。鼻がゾウのように長い
・幼虫は湾曲し、頭部は黄褐色で、背面に6個の突起がある
<被害>
・越冬成虫による食害は、田植直後の軟らかい稲の葉に、葉脈に沿って幅1.5mm程度で、長さ0.5から5~6cmにおよぶ細長い線状の食痕が断続的にみられる。食害痕は、幅が広く、白い縦線がある
・食痕は裏面の表皮を残して葉肉まで削りとられるように食害され、カスリ状に見える
・移植後2週間ころから幼虫が土中で根を食害するので、分げつが抑えられる
◆ フタオビコヤガ
<形態>
・卵は0.2~0.4mmの饅頭型
・幼虫は緑色のやや細長く、シャクトリムシのように歩きイネアオムシとも呼ばれる
・成虫は体長約10mm、開翅長約20~25mmの黄褐色の蛾で、前翅に褐色の2本の斜めの帯があり、これが名前の由来となっている
<被害>
・若齢幼虫は、かすり状の食痕を残すが、その後は葉縁からかじりとったように食害し、階段状の食痕になる
6班が圃場いっぱいに広がって調査
目を凝らして・・・
▶ 合鴨農法の見学
隣の川本隆幸さんの田んぼでは「合鴨」を除草用として飼育しています。アイガモは毎年田植えの時期に、生まれたての雛を購入・放鳥し、稲の収穫後に食肉用として処分されます。
八谷先生から学生たちに、合鴨農法についてレクチャーされました。
<メリット>
・合鴨は、田んぼに生える雑草を好んで食べる。これにより除草剤を使用をする必要がない
・合鴨は、虫・害虫を好んで食べる。合鴨が自然と餌となる害虫を食べる事により、農薬を使わずにすむ
・合鴨を田んぼに放す事により、排泄する糞尿が有機肥料の一部にもなる
<デメリット>
・合鴨の習性を正しく理解することが大切。合鴨のヒナを放す時期が、田植え直後(間もなく)だと、苗の根が安定していない田んぼの中を合鴨が泳ぐことになり、苗が倒れてしまうなど、米の成育に影響及ぼすことがある
・トビ、カラス、タヌキなど外敵の侵入、およびアイガモの逃亡を防ぐために、防鳥糸や柵で田んぼ全体を囲む必要がある
・放飼までの雛の時期に保温や給餌、馴致などを行なう必要がある。また、その後も補助飼料の補給、低気温の時期には保温など、飼育には手間を要する
・合鴨が田んぼの害虫を食べるので、田んぼには、虫がほとんどいなくなる
合鴨さんは、良いところも、飼育において大変なところも、それぞれ持ちあわせているのですね。
命ある生き物ですので、大変なところは人間と同じ。
素晴らしい所を生かして、水稲栽培に取り入れていくところが大切なのだと感じました。
川本隆幸さんの田んぼの合鴨さんたちは、ここの田んぼで一仕事終えた7月下旬頃には、ひまわりの里の池に放鳥され、訪れる人々を楽しませてくれます。
合鴨さんたち、ありがとう! 大きく、元気に育ってくださいね!
左:調査係、記録係に分かれて調査 右:お隣の川本隆幸さんの田んぼで雑草を食む「合鴨」
田んぼに息づく命の循環
様々な生命体が存在する田んぼは、食べたり、食べられたり、
生き物の生と死が繰り返えされる小宇宙
そんな神秘的な田んぼで命育み、大切に育てられる稲たちに
大いなる愛と感謝と笑顔をこめて。。。
抜ける青空に伸びゆく稲たち
◆関連記事
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・佐藤稔さん(田からもの・社長)農業技術の匠として有機栽培米を育てる(2011年6月6日)
・北竜町産ひまわりライス紹介ページ
◆参考ページ
・拓殖大学北海道短期大学
・島根県農業技術センター
・佐賀県農業試験研究センター
・愛知県・病害虫情報
◇ いくこ&のぼる