2020年7月29日(水)
令和2年4月に北竜町に移住、北竜町の山林で「自伐型林業」をスタートした若いご夫妻がいらっしゃいます。上井達矢さん(かみい たつや・28歳)・仁美さん(ひとみ・31歳)ご夫妻です。
「自伐型林業」とは、採算性と環境保全を高い次元で両立する持続的森林経営手法。国土の7割を占める山林を活用する「地方創生の鍵」として期待され、今、全国各地で次第に広がりつつある林業の経営形態です。
上井達矢さん仁美さんご夫妻
上井達矢さん・仁美さんご夫妻は、北竜町の山林25haを購入し、北竜町和の空き家を入手され、「自伐型林業」をスタートさせました。お忙しい中、上井ご夫妻にお話を伺いました。
二人の出逢い
札幌市出身の上井達矢さん、新ひだか町出身の仁美さん。お二人は、酪農学園大学(江別市)の先輩と後輩の仲。お二人共に、環境共生学類の学部の野生動物保護管理学研究室で意気投合。達矢さんは、酪農学研究科大学院修士課程を修了されています。
上井達矢さん

達矢さんは、昔から自然が大好きで、キャンプ好きなアウトドア派だったので、自然に関する仕事に就きたいと考えていました。家族は3人兄弟で3人共にサッカーに夢中。達矢さんは、小学校・中学校はサッカー部に所属。
北海道で自然を学ぶには、国立大学では北海道大学・帯広畜産大学などがありますが、学部が限られていました。そこで、自然環境全体を対象とする広い範囲の環境学を学びたいと思い、酪農学園大学を選択。
大学では、酪農学研究科大学院修士課程を修了。研究室の研修で訪問したマレーシアの森林で、自然の魅力に惹きつけられていきました。
「大学の研究室では、カエルの研究。修士課程では、エゾシカの生態分析解析研究をしていました。でも、こうした研究を生涯やっていくことは、自分としては少し違うなと感じていました」と語る達矢さん。
上井仁美さん

仁美さんは、実家が新ひだか町の山中のお寺で、自然の中で育ちました。小学生の頃は獣医を希望。高校卒業後の進路を決める時、動物のことを学びたいと思い、酪農大学に決めました。
日高地方は、エゾシカによる事故や作物被害が多数あります。環境の向上性を保つために、エゾシカの数をコントロールをする必要があるということもあり、大学時代にハンターの資格を取得。資格取得後に、狩猟・解体を学び複数回実施されています。
人生を変えた倶知安町の素敵なおじいちゃんとの出逢い
達矢さんは、修士課程終了後、倶知安町の博物館に勤務。その頃、倶知安町の森林に住む老人との出逢いが、人生に大きな変化をもたらしました。
その老人は、森の自然の中に住み、とても素敵に生活してるおじいちゃんです。庭には、吹き出し公園並の羊蹄山麓の湧き水が潤沢で、その湧き水で生活しています。
舗装道路からそれほど遠くない、立地環境の良い場所に土地を所有していました。とても人柄がよく、みんなに好かれてるおじいちゃんです。
「将来のおじいちゃん像を描くことが、自分自身の人生の最終目標です! 同じ仕事を何十年も続けるサラリーマン的人生はつまらないと感じていたので、将来は、倶知安町の森に住むおじいちゃんのような生活をして、森の中で、静かに生涯を終えたいなぁと考えるようになりました」と、未来像を語る上井さん。
(株)大西林業での2年間の勤務
自伐型林業については、倶知安町にいるときに知った白老町の森に住みたいという想いと、森に関する仕事をしていきたいという想いが募りました。
ネット検索で調べているうちにたどり着いたのが、白老町の(株)大西林業。同社は、北海道で自伐型林業を推進しいている会社。昔からやっていたことが自伐型林業と繋がり、2016年に北海道自伐型林業推進協議会を設立。多面的なネットワークが形成されています。面接では想いをしっかり伝えて採用決定。
2018年4月、早速、白老町に引っ越し。(株)大西林業にて、2年間の修行を兼ねて勤務。仕事内容は、薪(まき)とホダ木(しいたけ)と炭の出荷。現場に行き、道をつけて、チェーンソウで伐採し、トラックで運搬。薪割り、炭窯に木を入れて焼くなど、炭の出し入れ作業などの現場仕事をこなしました。
「お陰様で、すっかり逞しくなりました」と、達矢さん。
北海道白老町で木炭、木酢液、薪(まき)などの製造販売を手掛けております。 大西代表自ら広葉樹林の間伐などを行い、森林管理…
就職と同時に結婚生活をスタート
倶知安町から白老町に移り、就職と同時に結婚生活をスタート。今年2020年10月には、仁美さん、ご出産予定とのこと。おめでとうございます!
自伐型林業の社会貢献的な意義

「自伐型林業の社会貢献的な意義として『自然を守る』ということが挙げられます。私は、自然が好きで、森の自然を守りたいという強い想いがありました。自然を守るにはどうしたらいいのかとずっと考えてきました。
現在の主流の林業は、自然を守るというよりは、木を全部切って禿山にしてしまいます。すると、そこに住んでいた生物がいなくなり、木もなくなり、植生も変化します。
また、笹は根が強いので、はびこると木が生えにくくなります。そこに植林すると何度も草刈りをしなければなりません。そして、大雨時に土壌が流失するなど、災害が発生しやすい森林になってしまいます。山の土壌はとても大切で、土があり木があり、人間がそれを利用して生きていきます。
それに対し、倶知安町で見つけた、『自伐型林業』は、崩れない程度の小さな道を入れて、10年に一度くらい全体の3割ほどの間引き伐採を行います。
素性の良い木だけ残していくので、残された木が太くなり将来的には良い木材が採れます。木材の成長も良くなり、全体的な木材の太り方等、トータルでみたときに効率の良いものになっていきます。
自伐型林業は、基本、植林しないので、自然に良い木が生えてきます。森林の自然の力を残していく林業が『自伐型林業』なのです。
自伐型林業者が増えれば、自然を守れるのではないかと考えました。将来的には、自分がモデルケースとなり、空知周辺の自伐型林業者を増やし、自然を守っていきたいと思います」と、力強く語ってくださった上井達矢さんです。

上井さん自伐型林業・活動基盤
北竜町の山林約25haを購入
去年、2019年9月頃から山林探しをスタート。森林組合に相談したり、ネットで山林情報総合サイトなどの情報検索しましたが、なかなか広葉樹の山林を希望していた自分たちの条件に合う山が見つかりませんでした。
そんな時、親類・知人の伝手で「北竜町で山林を売り出しているかもしれないので調べてみたら」という情報をキャッチ。問い合わせて調べたところ、条件が一致。
購入した北竜町の山林は、面積約25ha。天然林と人工林が半々の山林。天然林は、自然林・広葉樹林の山で、ミズナラと白樺がメインでその他、シナノキ、イタヤカエデなど。半分の人工林のカラマツなど。
今年、2020年1月に山林登記完了。
北海道自伐型林業推進協議会に加入
早速、北海道自伐型林業推進協議会に加入。北海道自伐型林業推進協議会では、講習会や研修などが実施されていて、上井さんも積極的に参加し多くを学ばれています。
任意団体「ほくりゅう里山クラブ」設立
自伐型林業を進めるにあたり、空知地域の任意団体「ほくりゅう里山クラブ」を設立し代表に就任。現在、会員7名。
助成制度を活用「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」
上井さんは、手入れのされていない山林のための活動を支援する林野庁の助成制度「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」を活用されています(以下、林野庁HP「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」より抜粋)。
森林・山村多面的機能発揮対策交付金は、森林の多⾯的機能の発揮を図るとともに、⼭村地域のコミュニティを維持・活性化させるため、地域住⺠・森林所有者等3名以上で構成する活動組織が実施する里山林の保全、森林資源の利用、森林の保全管理活動等の取組を支援するものです。
1活動組織当たり500万円/年(国の交付額)を上限として支援されます。採択に当たっては3年間の活動計画等が必要。
<支援メニュー>
・地域環境保全タイプ:里山林景観を維持するための活動、侵入竹の伐採・除去活動
・森林資源利用タイプ:薪・椎茸原木として利用するための伐採活動
・森林機能強化タイプ:歩道、作業道の作設・改修
上井さん自伐型林業のビジネスモデル
様々な森林資源の販売。薪がメインで、ホダ木、白樺樹皮細工、キハダの樹皮、葡萄の蔓、薪割り台、トドマツオイル、トドマツツリー、キャンプ用焚付材など様々な需要が存在する。今後、実現可能な方法をひとつずつ試みていかれれるとのことです。
上井達矢さん仁美さんの将来の夢
上井達矢さん

「自然に対する意識を高め、林業者や町民の意識を高めること。そして、自伐型林業者を増やし、将来を見据えた持続的な生活スタイルを広めたいと考えています。
尚かつ、人のために役立つ地域貢献活動を積極的に実施していきたいと思います」。
上井仁美さん

「自分の山で狩猟するのが将来の夢。そして、山小屋に住み、カフェ経営などできればいいなと想い描いています。いろんな人が集まる場所にしてエゾシカ肉をみんなで分け合って食べてたいですね。
これから生まれてくる子どもたちが、自然の中で走り回るような、自然が大好きな家庭が築けたらいいなと思います」。
自然下(しぜんか)Instagram
・2020年から上井家が営んでいる小さな林業での日々の作業風景や、商品が紹介されています。Instagramの更新は奥様が担当されています。
各種商品
・薪(まき)、ホダ木、白樺樹皮。その他色々商品化に向けて模索中です
・販売に関するご質問やご要望をお気軽にどしどしお寄せください。皆様からの多数のお問い合わせお待ちしています
自然下 連絡先
・mail:shizenka.net@gmail.com
・Instagram メッセージ

北竜町の山林で、夢を描いてまっしぐらに突き進む、真摯な上井ご夫妻の素晴らしい想いに驚きと感動が溢れて止みません!
自伐型林業におけるお二人の活動を、私達の可能な限り精一杯の情報発信で、しっかりと応援させていただきたいと思います。これからも頑張ってください。ありがとうございます!!!
自然の中に身をおき、山林・森林の息づかいを感じながら、偉大なる自然と共存して生きていく素敵な上井さんご夫妻!!!
自然豊かな北竜町でのお二人の素晴らしき人生に、限りない愛と感謝と祈りをこめて。。。
◇ Nhiếp ảnh/biên tập: Noboru Terauchi Phỏng vấn/văn bản: Ikuko Terauchi