佐藤稔さん(田からもの・社長)農業技術の匠として有機栽培米を育てる

2011/06/07 9:22 に 寺内昇 が投稿   [ 2015/12/20 12:57 に更新しました ]
2011年6月8日(水)  

私達は、この北竜町に移り住んで、早一年。たくさんの感動の日々の中でも、初めて味わった「新米」の美味しさは格別です。

暑寒別山系の裾野に広がる田園地帯。そこに流れ込む雪解けの清らかな水、肥沃の土、寒暖差のある変化に飛んだ大自然の中、育くまれていくお米たち。。。

低農薬栽培米として、北海道の中ではパイオニア的存在である北竜町の農業。

稲作の中心的存在である「北竜ひまわりライス生産組合」の組合長・佐藤稔(さとうみのる)さん(56歳)にお話をお伺いすることができました。


佐藤稔さん・農業技術の匠(農林水産省選定)
佐藤稔さん・農業技術の匠(農林水産省選定)


◆ 農業技術の匠・佐藤稔氏「除草剤に匹敵する代替技術で有機栽培米を作る」

佐藤稔さんは、2008年(平成20年)12月、農林水産省の第1回「農業技術の匠」に選定されました。

「農業技術の匠」とは、地域に普及し、地域活性化に繋がる農業技術を自ら開発・改良した農業者を対象に、農林水産省が選定するもの。

第1回の「匠」は、高品質な茶の安定生産技術や、キクの新たな栽培技術などを開発した等、全国から優れた技術を確立した農業者28人が選定されました。北海道からは、北竜町の佐藤稔さん(北竜町ひまわりライス生産組合 組合長)と、江別市の片岡弘正さん(江別麦の会 会長)のお二人。

佐藤稔さんの匠の技は「除草剤に匹敵する代替技術で有機栽培米を作る」として高く評価されました。

北竜町のうるち米・もち米の生産組合である「ひまわりライス生産組合」の組合長を務める佐藤稔さんが、有機米栽培を開始したのは、今から20年前の1991年(平成3年)。2000年(平成12年)には、有機JAS認証を受け、有機米と特別栽培米を作付け。現在に至るまで、有機栽培米への挑戦が続けられています。

栽培にあたっては、特に手間のかかる「防除・除草作業」について、改善・研究を重ねました。


  • 代かき作業を2回行い雑草を土中に埋没させます。田植えの10日前に荒代かき。雑草の発芽を待ち、さらに、田植え前日の仕上げ代かきで雑草を土に練り込むのです。通常1回のところ、2回の代かきです。
    「こうして手間をかけることによって、雑草の生育を10日以上遅らせることができます」と佐藤さん。
  • 田植え10日後に「ロータ式除草機」で条間を攪拌して土を柔らかくし、ティラガモ除草機で、株間を除草。
  • 「1996年(平成18年)頃、ティラガモ除草機を導入し、一日で約1.5haの処理が可能となりました。手取りの除草時間の大幅な圧縮につながったのです。除草はタイミングが命。早からず、遅からず、最適な時期に最優先で行います」と力強い佐藤さんのお言葉です。
  • 種子消毒やいもち病の予防には、米酢希釈液(3回散布)を使用。
  • ドロオイムシの駆除には「ドロオイムシクリーナー」と名付けられた機器を使用。ドロオイムシクリーナーの回るゴム板で、稲についている虫をはたき落とす。
  • 「使用時間帯は、虫が朝露で滑りやすい早朝が効果的です」と話す佐藤稔さんは、朝4時ごろ、日の出とともに起床し農作業を始められるそうです。
  • 肥料メーカーと共同で、有機質100%の肥料を開発。それまで自家製造していたボカシ肥料作成の手間を大幅に削減。浮いた労力を除草作業に充てる。


こうした試行錯誤の試みによって、2008年(平成20年)産の有機米の収量が10アールあたり600kg(反収10俵)を超えています。有機栽培でありながら、慣行栽培と変わらない収量を上げていることなどが高く評価されました。


土を柔らかくする「ロータ式除草機」    ドロオイムシクリーナー
左:土を柔らかくする「ロータ式除草機」      右:ドロオイムシクリーナー

育苗ハウスの後片付け
育苗ハウスの後片付け

ティラガモ除草機1    ティラガモ除草機2"
左:ティラガモ除草機・後方から      右:ティラガモ除草機・草取り部分


◆ 北竜町のクリーン農業の始まり・「命と健康を守る食糧生産宣言」

「食べものはいのち(命)」の魂は、JAきたそらち組合長を務められた黄倉良二(おうくらりょうじ)さんと故・後藤亨(ごとうとおる)さんが有機栽培に取り組み始めてから、40年の時を超えて受け継がれてきました。

1988年(昭和63年)、農協青年部長であった佐藤稔さんは、九州の共生社生協(現・グリーンコープ)からの依頼を受けて、除草剤を使わない米作りに挑戦していきます。農民集会では「国民の命と健康を守る食糧生産」が宣言されました。地域あげての安心安全な米作りの環境が整い、地道な努力が続けられました。


2004年(平成16年):「北竜町うるち米・もち米生産組合」設立(町内全稲作農家加入)

2005年(平成17年):生産・流通履歴情報の把握システムを整備
                         北海道の慣行栽培基準(農薬22成分)の50%減(農薬11成分)
                                         で米の出荷ができるようになる

2006年(平成18年):トレーサビリティを認証する「生産情報公表農産物JAS規格」を取得

2007年(平成19年):うるち米ともち米生産者の組織を一本化。「北竜ひまわりライス生産組合」が誕生
                         佐藤稔さんは、組合長に就任


◆ 田からもの(田んぼのお米は、神様から戴いた宝もの)
      – 命を育む農業・消費者の声を大切にする農業 
– 

1983年(昭和58年)に就農された佐藤稔さん。現在、北海道指導農業士の顔を持つ佐藤さんは、北海道有機農業研究協議会常務理事・きたそらち農協監事を兼任。

そして、有限会社 田からもの代表取締役社長として、二人の若手社員(20歳と35歳)の農業指導にあたっています。厳しく、そして暖かく接していらっしゃるそうです。さらに、パートさんは、年間延べ約60人を雇用しています。有機栽培で、慣行農業と変わらない収量を確保しながら、経営者としても組織をしっかり運営されている佐藤さんです。

「人を指導するということは、自分がわかっている段階より一段階上の学習が必要です。人に教えると自分の勉強にもなるものです。

会社の農業経営計画は、5年計画・10年計画を立てます。社員が将来継続して農業をやっていけるように、指導し育てていくことが、会社を存続させ成長させるために必要なことです」と佐藤さんは、将来の映像を描きながら、若者たちを育てることの大切さを熱く語ってくださいました。

「人生において、米作りは30回しかできないのです。稲作は、10回一括りの中で「失敗」「丁度いい」「成功」の繰り返し。10回の間に、いかに「失敗」と「成功」を少なくして、「丁度いい」回を多くするか。丁度いいときは豊作。いかに豊作にもっていくかをじっくりと考えていきます。

私は簿記が得意ですが、数字を出す事が目的ではありません。数字を読んで、いかに改善するかが大切なのです。問題点を解決する努力を重ねるのと、ただ経営するのでは、30年間の間に大きな差がでてきます。

だからこそ、1回1回の稲作を悔いのないよう精一杯取り組み続けることに力を尽くしていきます。

常に、命ある食べものを食す人々の声に耳を傾け、お客さんを大切にして、いいお米を届ける農業を続けていきます」

「命育む農業」を伝えていくことに情熱を注ぎ続ける佐藤稔さんの熱き想いが、見渡す限りの農場に広がっていくように感じられました。


(有)田からもの(代表取締役社長・佐藤稔)    田植風景
左:自然栽培米(有)田からもの      右:田植風景 1     

田植風景2    田植風景3
左:田植風景2      右:田植風景3



雄大な自然と向き合いながら、命あるたべものを心で感じ取り、
改善する経営を継続する農業。


20年、30年先のビジョンを思い描き、

受け継がれていく、揺るぎない魂に

大いなる尊敬と感謝と祈りをこめて。。。


有機栽培の田植風景

田植風景・佐藤稔さん(農業技術の匠)

◇ いくこ&のぼる


◆ 有限会社 田からもの(代表取締役社長・佐藤稔)
   北海道雨竜郡北竜町字惠岱別
   Tel・Fax:0164−34−3710


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◇ 撮影・編集=寺内昇  取材・文=寺内郁子