高井瑞枝先生講演「地域活性化は大いなる経験から」(北竜町ひまわり大学)を聴講

2011/04/21 0:53 に 寺内昇 が投稿   [ 2014/12/12 15:57 に更新しました ]
2011年1月13日(木)

北竜町・ひまわり大学の講座で「地域活性化は大いなる経験から ~地場食材を見直そう~」と題する高井瑞枝先生の講演会が北竜町公民館で行われました。

高井瑞枝先生は、1947年、北海道枝幸町(えさしちょう)出身。
獣医のお父様の教え「命をいただく」を食に対する原点として、高校卒業後に単身で海外渡航。中国四川での中華料理修行、インドでのスパイス作り修行、チベット奥地での修行など、数カ国での学びを重ね、1975年に渡米。米国アラスカ州コミュニケーションカレッジで料理の技術とマネージメントを学ばれました。

1988年に帰国。その後、札幌を拠点とし、世界中を駆け巡るトータル・フード・コーディネータとしてご活躍。
1993年には「高井塾」を立ち上げ、農業改良普及をはじめ、専門家育成指導等に積極的な活動を展開していらっしゃいます。


高井瑞枝先生
高井瑞枝先生講演「地域活性は大いなる経験から」北竜町ひまわり大学


「命をいただく」が食に対する原点

お父様が獣医だった高井先生は、生活の一部として家畜の生死に接し、時には家畜を食としていただいていました。お父様の教えである「命をいただく」「いただいた命で私達は生きている」という魂に、生まれた時から触れていたと言えます。お父様の教えは、高井先生の物作り、食に対する原点になっていらっしゃいます。


あたりまえの中に潜むお宝

そして、高井先生が海外で学んだんことは「地域の人たちが、そこの地域の中で何をやっていくか」という地域ならではの特徴を活かすことの大切さでした。

地域の人々が口を揃えて語る言葉「そんなことはあたりまえ」。このあたりまえの中に潜む大切さを高井先生は多くの人々に伝えていらっしゃいます。


いままで高井先生が指導された多くの事業の中から、地域の特徴を生かした実践例をいくつかお話してくださいました。


おばあちゃんグループのみかんジュース(和歌山県)

和歌山県みかん農家のグループ・スーパーおばあちゃん達7人(65歳~74歳)がビジネスに結びつけた、みかんジュースづくりのお話です。

高井先生が現地に赴きまず実行したことは、楽しく作業ができる心地よい環境作り。
納屋をみかんジュースづくりの作業場に改装。なんと納屋の高い天井全体を青空の模様の壁紙(アメリカから取り寄せた壁紙)を張り、ぽっかりと雲の浮かぶ青空に変身させたそうです。
すご~い!!!

そして、作業中には、おばあちゃんたちの好きな音楽(春日八郎のお富さん、三橋美智也の演歌など)を流し、腰の曲がったおばあちゃんの体形に合わせた変則的な機械を設置するなど。。。おばあちゃんたちが工場にくることが楽しいと感じるような環境作りをしていったそうです。

最初の1年間は、みんなで楽しんだみかんジュースづくり。
1年後、老人ホームから注文が舞い込んできました。そこで、高井先生はおばあちゃん達に提案しました。

「みかんジュースづくりをこのまま遊びでやるのか、ビジネスとしてやるのか決めてください。ビジネスとして展開させるには、一からやり方を変えなければなりませんよ」

返ってきたおばあちゃんたちの言葉は

「カルチャーでやるのはいやじゃ!」

つまり遊びではやりたくないと。。。

みかんジュース作りをビジネスとして取り組み始めて、まず取り組んだことは「データを取って、記録すること」。
おばあちゃん達に、今まで書いたことのない日記を始めてもらいました。最初の頃、日記に書かれていたことは「起きた。寝た」の2行。しかし半年間、記録を取る訓練を重ねました。

その後、みかんの収穫から商品化に至るまでの1年間で、おばあちゃん達は、ジュースが美味しいときの原料の状態を把握することができるようになったのです。熟成度80%のみかんが、ジュースの原料として最良でした。

さらに、おばあちゃんならではの熟練の技が力を発揮しました。長年の経験からみかんの成熟度を正確に見分けることができたのです。そこで、おばあちゃん達全員で80%に熟成したみかんだけを収穫して、ジュースに加工しました。最良の原料を使えることは、生産者として大きな強味になります。

また、働くスタイルも工夫をしました。
メンバーの中のお一人が、寝たきりのご両親の介護をされて、工場で働くことができなくなったときのことです。

その人は工場勤務を止め、自宅でパソコンを使い、総務の仕事を一手に引き受けられたのです。自宅に居ながら、発注、棚卸し、苦情処理など全ての事務処理をパソコンで処理しました。その人のお陰で、事務処理は一段とスムーズになり、利益もあげることができました。

さまざまな事業において、それぞれの地域の中で、それに関わる一人一人が個々の特徴を持っています。一人一人が異なった環境の中で、生活していることを理解し受け止め、共有しながら、全体の仕事を作り上げていくことが大切です。皆で作ることが、地域活性の事業の源なのです」と高井先生は力強く主張されていらっしゃいます。

その後、最後の3年間では、およそ年間1億円もの売上となりましたが、おばあちゃん達の高齢化に伴い加工を終了しました。85歳までやり遂げた一人のおばあちゃんもいました。

「大変だったけれども、楽しい良い人生だった」と、皆さん口を揃えておっしゃったそうです。

経験を重ね、歳月を積み上げてきたからこそできる匠の技がそこに存在しました。その地域で長年続けられている当り前のことに、視点を変えることによって、あたりまえのものが新しいものへと創造されていく実践例といえます。


ひまわり大学 ひまわり大学


かあちゃんの店の「めはりずし」(和歌山県新宮市熊野川町)

地元の主婦の方々が8年前に開いたお店「かあちゃんの店」。

開店に当たって、高井先生は相談を受けました。メニューを考えた時、最初の頃はハンバーグやスパゲッティなどが挙りました。自分達が食べたい物を考えたのです。

高井先生は、観光に来る人々の気持について考えるように、再考を促しました。都会の人々が、休みをとって観光に来た自然豊かな熊野で、日頃食べ慣れているハンバーグを食べたいと思うでしょうか。

検討していくうちに、自分達が食べたいものではなく、観光に来た人々が望んでいるもの「ここでしか食べられないもの」をメニューにすることになりました。

そこで、この地域ならではの食べ物を探したところ、地元の人々が子供の頃から食べ親しんでいる「めはりずし」をメニューに決定しました。めはりずしとは、目を見張るほど美味しいと伝えられていることから名前がつけられたそうです。


食べ物を扱う人は嘘をついてはいけない

「食べ物とは、9割以上の見えないところに、真理があります。見えないものとは、味、栄養、鮮度、香り。見えないものは表示するこができません。
そこで、食べ物に表示されている情報が、真実を伝えていく唯一の証となります。
表示方法によっては、朝採りが当日の朝のように思えたり、加工地があたかも生産地であるかのように感じてしまう混乱を招いていることもあるのです」

「信用・信頼」に結びつく真実の大切さについて、高井先生は熱く語ってくださいました。


弱点を伝えることでお客様の信頼を得る

商品を販売するとき、お客様に、原料について一年間の供給量を一覧表にして明示されたそうです。
お客様に畑の広さや現状の収穫量など全てを示した上で契約。その際、生産上の不利な状況も必ず伝え、納得して戴く。生産情報を隠さず発信していくことによって、お客様が、生産者の事情を理解できるようになります。

「自分達の弱点(欠点)を含め全て伝えていくことが、お客様との信頼関係を築く最適な方法です」多くの体験に基づく、高井先生の貴重なお言葉です。


「やってはいけない五食」、「大切な五色・五味」

「やってはいけない五食とは『個食、孤食、子食、好食、誤食』。
ひとりで好きなものだけを食べる五食はやめましょう。生活の中で家族と一緒にいることが大切です。
食事の中で大切なことは、五色、五味を取り入れていくこと。五色とは、赤、白、黄、茶、緑。五味とは、甘味、辛味、苦味、塩味、酢味。バラエティに富んだ食事をみんなで楽しむことが大切です。
食育とは、食べることだけではありません。いい状態で生産され、いい状態で販売され、いい状態で調理されて、はじめて食され、栄養となることを学ぶことです」高井先生のお言葉に秘められた命の循環です。


日常的なものは地元で買う

 日常的なものを地元で買うには、地元の商店が継続していかなくてはなりません。地元の商店街が継続して発展することは、地域の人々の活動に繋がっていきます。地域にあるものを、地域で作り、地域の人々が買っていく。この循環が地域を活性化する源となり得るのです。

「生きる上で大切なことは、何を残し、何を伝えていくかということ。地域に眠っているものを掘り起こして、今だけはなく、将来にわたって世代を超えて伝えていくものを残していくことです。地域の活性化は、そこに住んでいる人々が行うものです。
 北竜町には、素晴らしい食材、そして意欲溢れた生産者の方々がいらっしゃっいます。北竜町の発展を心より応援いたします」高井先生の力強いお話は、私達に勇気と活力を与えてくださいました。

心に響く、たくさんの貴重なお話をありがとうございました。

ひまわりパークゴルフ場 & ひまわりの里
『食の架け橋―ひとり旅一食一会』
高井瑞枝(著)彩流社 (2009/5)



地域で生まれたものを、地域の人々が育て伝えていく命の循環、

地域に埋れている宝物に気づくことの大切さに、

無限の愛と感謝と笑顔をこめて。。。


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◇ 撮影・編集=寺内昇 取材・文=寺内郁子