谷口威裕氏「農業のグローバル化時代をむかえて」北竜町農業研究会主催・60周年記念講演会

2011/04/21 0:47 に 寺内昇 が投稿   [ 2016/03/18 2:38 に更新しました ]
2010年12月2日(木)

北竜町農業研究会主催の60周年記念講演会が、JAきたそらち北竜支所で開催されました。
谷口威裕(たにぐちたけひろ)氏(株式会社谷口農場・代表取締役社長)を講師にお迎えして「農業のグローバル化時代をむかえて―我が社の曲折の歩みと将来展望―」と題する講演会です。

60周年を迎えた北竜町農業研究会会長・小野敏氏のお言葉を戴き、講演会がスタートしました。


谷口威裕氏(株式会社谷口農場・代表取締役社長)
谷口威裕氏(株式会社谷口農場・代表取締役社長)


 波瀾万丈の農業経営

谷口威裕氏は、1949年旭川市生まれの61才。北海道の農業法人を代表するお一人です。

1968年3月、お父様の経営する谷口農場に就職。
給料制(月額手取り120,000円)で仕事をはじめられました。友人より少ない額面について父親に質したところ、社会保険などの経費が天引きされている説明を受け合点。学生時代とは異なる、実社会の仕組みを肌で感じられたそうです。

農業では、夏は水稲、冬はエノキ栽培と経営の多角化を推進。
父親に任されたエノキ栽培では、わずかな期間で大きな収益をあげた直後、キノコハウス全焼という災難に遭遇。ハウスは、すぐに建て直すことができましたが、他所でのキノコ栽培も本格的になり、価格が低迷。結果として、1978年にキノコ栽培から撤退することにとなりました。

その後、旭川の先輩や友人と(有)大雪共栄ファームを設立。
減反政策(米の生産を抑制する施策)が始まった時代でもあり、ビート、キャベツ、麦、小豆、大豆等の畑作農業に取り組みました。16年後に解散。

家族の健康問題がきっかけとなり、環境保全型農業に取り組みはじめました。
旭川市の市民の方々との交流を目的とした市民農園を立ち上げたのです。1987年にはトマトの栽培を開始。市民農園の収穫祭で出したトマトジュースが切っ掛けとなり、トマトジュースの販売が拡大しました。

当時、北海道クリーン農業研究会を組織。
研究会の活動を切っ掛けに、らでぃっしゅぼーや株式会社(有機・低農薬野菜、無添加食品などの販売を手掛ける企業)と契約し、トマトジュースの製造・販売事業を開始しました。

評判も高く、順調に進んでいました。そんな矢先、出荷したジュース缶が破裂する事件が発生。出荷停止となり、在庫の山を抱えながら、資金繰りに奔走。取引先からも配慮をいただき、何とか苦境を乗り越えることができました。品質管理を任せきりにしていたことを深く反省された出来事です。

幾度となく襲いかかる困難を乗り越えて、挑戦と失敗との繰り返しの経営が繰り広げられました。

2000年以降、発想の転換を図り、経営多角化の模索を開始。
体験農場、トマトもぎとり園、農場直売店の事業などを展開されました。特別栽培米「雪の舞」、有機トマトや特別栽培野菜の生産販売。原料の生産から製品の加工までの一貫体制による野菜ジュース、野菜ゼリー、食べるスープ。その他味噌などの大豆関連製品の製造・販売。そして、有機質発酵肥料「夢農場」「生ごみアップ」の製造・販売にまで多角化は及びました。
さらに、農場レストラン「まっかなトマト」、旭山動物園直営店「ファームZoo」の運営へと展開していったのです。

こうした努力が実り、売上高は、2010年1月期で3億円を上回りました。


小田敏氏(北竜町農業研究会会長)

北竜町農業研究会主催の60周年記念講演会 北竜町農業研究会主催の60周年記念講演会・谷口威裕氏(株式会社谷口農場・代表取締役社長)


「北海道は最高級の食べ物の生産地」という北海道ブランドの確立

独自の経営の歩みの中で、世界的な規模における日本の農業について、谷口さんは次のように感じていらっしゃいます。

世界の人口増加により食糧危機は確実となり、食料とエネルギーを確保するための争奪戦が、世界各地で勃発。そして、世界には砂漠化の進行と水不足問題が深刻となり、海流異変による漁獲量の減少問題も拡大しています。

こうした世界の動きの中で、日本の農業政策が減反政策による生産調整へと向っています。世界と日本には食糧確保に対する考えに大きなギャップがあるのです。

「今こそ日本の農家は、世界的視野を養い経営に取り組んでいく必要があり『自分の経営は自分で守る』という認識をしっかりと固めることが大切だ」と谷口さんは力説されました。

そして、谷口さんが積極的な営業活動を展開している現場で感じていることを、いくつかお話してくださいました。


日本の農業の強さは「クオリティメリット」であり、精密な「農業的ものづくり」

いままでの方法に意識が縛り付けられているように思う。とことんこだわりをもって、創意工夫のものづくりをしていくことが大切。今までのものとは違う、今までの認識を変えるような需要が生まれ、その需要に答えることのできものが作り出されていく。

・ 日本の農業の基本は「合わせ技農業」

発展的な考えをもって、変化に対応できる経営を考える必要がある。

面倒くさいことを続ける」農業こそが、商いでありビジネス

農業を行う上で、楽して経営は成り立たない。

「情報発進」も、農業経営の大切な仕事である

農業産地として「私はここにいます」という存在を証明することになる。その地域ならではの、消費者に選ばれるような産地づくりを目指して、確かな情報発信をしていくことの必要性を感じている。

・ 営利経営である以上利益をあげていくことが大原則

「成功のコツは、コツコツ」という言葉に示されているように、ひとつひとつ積み上げていくことが大切だと思う。

「人に投資する」「人は財産」として、新規就業者や若手経営者の育成に力を入れる

人としての強い意思が重要であると感じている。

「北海道は最高級の食べ物の生産地」であるというアジアの中での北海道ブランドを認識していく

日本の農業の強さをしっかりと認識し、気づくことができれば北海道ブランドは発展していく。北海道の農業の可能性に投資する動きが出ている。現在ベトナムから、安心安全な「綺麗野菜」のモデル農場作りの協力を求められている。

「内向きから外向きの視点」へと変化させて、北海道農業を見つめ直して行くことが必要

新たな見方で経営する努力を重ねていくことによって、弱さを強さに変えていくことが可能ではないかと感じている。

「住んでいる地域が良くなることを考える農業。意思ある人々が集って生きていく農業。利益を上げ、分配していく農業法人経営の必要性を感じるとともに、北海道農業の可能性・素晴らしさを次の世代へ伝えていくことの大切さを感じています」と谷口さんは力強く語っていらっしゃいました。

▶ 第1回・第6回HAL農業賞受賞

株式会社谷口農場は、(財)北海道農業企業化研究所が主催する2005年第1回HAL農業賞「神内大賞」を受賞。そして2010年第6回HAL農業賞「北海道農業貢献賞」を受賞されました(HAL:Hokkaido Agricultural Laboratory)。

HAL農業賞は、北海道の農業分野において独創的な組織運営を行い、農業生産技術や加工・流通開発に取り組む法人などに贈られる賞です。この名誉ある賞を受賞された谷口農場は、まさに農業を企業へと発展させた、北海道を代表する農業法人なのです。

北海道の大自然で育まれた農業を、今までにない広い視野と行動力で、耐ゆまぬ努力を続けていらっしゃる姿勢に心から感動いたしました。


天然温泉・ホテル・レストラン町営複合施設「サンフラワーパーク」@農道(北海道北竜町)
天然温泉・ホテル・レストラン町営複合施設
「サンフラワーパーク」@農道(北海道北竜町)



恵み豊かな北海道の大自然が織り成す、最高級の食材が生み出され、

地域で発展し変化し続ける、あらゆる可能性を秘めた北海道の農業に

限りない尊敬と感謝と愛をこめて。。。


 いくこ&のぼる